Research Abstract |
本研窒の目的は,自伝的記憶の安定化傾向を青年期〜成人期で検討するとともに,意味記憶やエピソード記憶の変化も合わせて検討することで,記憶システムの中での自伝的記憶の位置づけや,記憶システム全体の加齢変化をも併せて明らかにすることである。平成20年度は以下の成果が得られた。 第一に,自伝的記憶,意味記憶,エピソード記憶という3つの記憶システムの間の関係について,理論的な検討を進めた 第二に,青年期と成人期の協力者を対象に,自伝的記憶想起と意味記憶検索の安定性を比較するための実験を行った。青年群(19〜22歳,46名)と成人群(31〜60歳,43名)が参加した。質問紙法を用いて,「陽気な」「緊張した」など5つの性格特性語を呈示し,自伝的記憶課題では,各特性語があてはまる経験を2つずつ回答させた。意味記憶課題では,各特性語と意味が似ている表現を4つずつ回答させた。参加者には予告せず,1回目の調査を依頼した。さあらに2回目の回答後に,1回目に想起された自伝的記憶の重要度,想起頻度,鮮明度,自己象徴度の評定を求めた。2種類の課題のそれぞれについて,1回目と2回目に反復して回答された記述をカウントして,想起・検索の安定性の指標とした。意味記憶課題では群間の差は有意でなく,自伝的記憶課題でのみ,成人群の安定性が有意に高かった。追加評定の分析からは,反復想起された自伝的記憶は重要度・想起頻度・鮮明度・自己象徴度が高いことが見いだされた。 20年度め成果は先行研究と整合し,加齢に伴う想起の安定化が自伝的記憶独自の現象であることを示している。21年度以降は,実験室的なエピソード記憶課題での検索の安定性や,ライフストーリー面接での想起の安定性等とも比較し,自伝的記憶システムの独自性を検討することが必要と考えられる。
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