Research Abstract |
平成20年度における研究では,Hirsch(1969)の社会的統制論に基づく親への愛着の再犯に対する抑止効果が,非行少年たちが生活している地域社会の完全失業率にどのような影響を受けているのかを,1991年に日本全国の少年鑑別所に初めて入所した少年6238名を対象として検討した。完全失業率の再犯に対する影響は,Cantor&Land(1985)を参考とし,完全失業率(の水準)が低いと,犯罪機会が減少するめに再犯は抑制され,完全失業率の前年との差が大きいと,犯罪動機効果が強くなって再犯は促進されると仮定した。解析手法としては,全ての非行少年が必ず再犯するわけではないとの前提を置くindividual logit/log-normal split population modelをもとに,このモデルの説明変数部を,親への愛着などの個人レベルの変数部と,完全失業率といった地域レベルの変数部とに階層化したモデルであるHierarchical individual logit/log-normal split population modelを新たに開発した。その結果,親への愛着,完全失業率の水準,完全失業率の前年との差の主効果は,いずれも理論的な予測と一致する方向で有意となった。さらに,親への愛着と完全失業率に関する二つの変数の交互作用も有意であることが見いだされた。この結果からは,完全失業率が高いときは,理論とは逆に,親への愛着は再犯促進的に機能するが,完全失業率が悪化しているときには,理論通り,親への愛着は再犯抑制的に働くことが分かる。 本研究の意義は,次の2点にある。第一は,再犯研究において初めて説明変数を階層化し,個人属性と地域社会の変数の影響を検討した点である。このモデルを用いたことによって,親への愛着の再犯抑止効果は地域社会の経済状況に大きく依存していることが見いだされた。第二は,地域社会の経済状態が非行発生に与える効果を検証した従来の研究は,当該年の地域の経済状況だけに焦点を当てたものがほとんどであったが,Cantor&Land(1985)の理論をもとに,前年との差の影響も,再犯に大きな影響を与えていることを示した点である。
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