Research Abstract |
ショウジョウバエの初期胚の前後軸は,前端から後端に向かって作られるBICOIDタンパクの濃度勾配(モルフォジェン)によって形成される.一方で,BICOIDモルフォジェン濃度の変動に対し個体は調整・緩衝する能力を備えている.この初期胚の調節能力について1)複数種のスクリーニングの組み合せ解析による,過剰量のbicoidに対する調節機構に働く遺伝子の同定;2)自然集団から確立した染色体系統の調節能力の評価;3)調節能力に劣る系統の多面発現効果と他の弱い突然変異との複合効果の検証;4)6コピーのbicoidという人為淘汰による調節能力の実験室内の進化の検証が本研究の目的である.本年度はこのうち2)~4)のため,自然集団由来のホモ染色体系統を確立し,その能力を解析した.結果,野生型の2コピーと比べ6コピーのbicoid遺伝子存在下で生存力の遺伝分散が有意に増加することが示された.つまり調節能力に遺伝的変異が存在していた.この結果は個体発生の頑健性は遺伝的にコントロールされていて,その能力に個体差があることを意味する.また,6コピーのbicoid遺伝子存在下で生存力が大きく,有意に低下した3系統と,逆に生存力が上昇した1系統は,3),4)の研究材料として今後,有用となる.なお,これらの系統も胚の頭部と胸部の境界の指標となる頭褶の位置は他の系統と変わらない.つまり,BICOIDモルフォジェンそのものや,その読み取りではなく,その後の調節に障害はあることが強く示唆された.また,穏やかな4コピーのbicoid遺伝子の遺伝的背景においても,6コピーの場合ほど顕著ではないが,一致した傾向が観察された.以上の成果を国内外の研究集会で発表した.
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