Research Abstract |
磁性金属を内包したフラーレン,すなわち量子スピン系フラーレンを創製することを目的として,前年度の成果を基に,プラズマパラメータを制御した磁性金属のフラーレンへの照射実験と解析を行った.本年度は特に,磁性金属としてニッケルを採用し,磁気ミラー型電子サイクロトロン共鳴放電アルゴンプラズマ中の高エネルギー電子やイオンを真空容器内のニッケル板及びグリッドへ衝突させ,スパッタによってニッケル原子を生成する「ニッケルスパッタ法」を用いて,多量のニッケル原子生成とニッケル内包フラーレン形成実験を行った. 1.ニッケル板及びグリッドに負電位を印加し,これらに衝突するアルゴンイオンのエネルギーを制御したところ,エネルギーの増加に伴ってプラズマ中のニッケル原子の発光強度が増大し,また基板上の堆積物にニッケルに相当する質量数58及び60(同位体)のピークを観測することができ,効率的にニッケル原子を含むプラズマを生成できることを明らかにした. 2.生成したニッケル含有プラズマをフラーレンへ照射し,その試料をレーザー脱離飛行時間型質量分析器で解析した結果,ニッケル内包フラーレン(Ni@C_<60>)に相当する質量数778にピークが観測され,さらに炭素及びニッケルの同位対比を考慮して計算した質量数の予測値と実験結果がほぼ一致することが明らかになった.また,比較的高強度のレーザー照射においてもこれらのピークが安定に検出されることが分かった.これらの結果は,フラーレンにニッケルを内包した複合物質が形成されたことを示している. 3.ニッケル板及びグリッドへ衝突するアルゴンイオンの量を増加させることで,質量数778のピークが増大することが分かり,スパッタにより多量に生成されたニッケル原子が内包フラーレン形成に寄与していることを明らかにした. 4.フラーレンを構成する炭素原子一つとニッケル原子が置換したニッケルヘテロフラーレン(C_<59>Ni)に相当する質量数766のピークも観測されており,ニッケル含有プラズマ照射により多様なニッケルとフラーレンの複合物質を形成できることを明らかにした.
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