2010 Fiscal Year Annual Research Report
大型類人猿における自己と他者の理解およびその相互連関に関する比較研究
Project/Area Number |
20680015
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Research Institution | Hayashibara Biochemical Laboratories, Inc. Great Ape. Research Institute |
Principal Investigator |
平田 聡 株式会社林原生物化学研究所類人猿研究センター, 心理・行動学研究部, 研究員 (80396225)
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Keywords | 大型類人猿 / 協力 / アイコンタクト / 意図の理解 / 自己認識 |
Research Abstract |
ヒトの知性の進化的基盤を探るため、比較認知心理学的観点から、大型類人猿の自己理解と他者理解に関して調べる実験的研究をおこなった。得られた結果を、ヒトにおいて明らかにされてきた知見と比較し、さらに、被験体の間で見られる個体差との関連を分析した。実施した研究内容は、1)協力場面における相手の状況の理解とコミュニケーション、2)他者の意図的行為の知覚、3)自己の名前の認識に関する脳内メカニズムについてのヒトとの比較、4)鏡やモニター画面に映し出された自己像や他者像の認識の各項目である。その結果、1)他者と協力することが可能であるが、その過程で相手とアイコンタクトを取ることはなく、ヒトのように積極的・明示的なコミュニケーションは見られない、2)他者の行為を観察する際にも、他者の表情を窺うような行動はおこなわず、自己-他者-対象物の三項関係が成立しにくい、3)類人猿も自己の名前を認識しているが、その潜時がヒトと異なる、4)遅延した自己像を正しく認識できる個体とそうでない個体の個体差が明瞭であり、他の認知課題における個体差と相関がみられる場合が認められる、といったことが明らかとなった。以上のような一連の研究によって、大型類人猿の他者理解と自己理解の諸相を明らかにすることができ、ヒトとの類似点、相違点も浮かび上がってきた。大型類人猿の社会的知性に関してこのように包括的に検討を加えた例は過去にほとんどなく、ヒトの知性の進化を考えるにあたって重要な意義を持つと言える。
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