2011 Fiscal Year Annual Research Report
長期化難民の社会・文化・アイデンティティの再構築と開発に関する人類学的研究
Project/Area Number |
20710190
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
内藤 直樹 徳島大学, 大学院・ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (70467421)
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Keywords | アフリカ / 長期化難民 / 難民-ホスト関係 / ソマリア / 平和構築 / モバイルバンキング / インターネット / モバイルメディア |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、アフリカが直面している「難民状態の長期化」にかかわる諸問題を現場の視点に基づき理解し、難民とホスト双方を包含した新たな地域社会像の構築とその発展モデルの策定に必要な基礎的資料を提供することにある。そのために、世界最大の難民キャンプであるケニア・ダダーブ難民キャンプでのフィールド調査を実施し、難民が生活を再編するためにおこなう創造的な文化・社会的実践等の様態を解明する。4年計画の最終年度である平成23年度は、これまでの研究成果のとりまとめをおこない、日本アフリカ学会および日本文化人類学会での分科会および国立民族学博物館機関研究シンポジウム「福祉と開発の人類学:ひろがる包摂空間とライフコース」を開催した。 現地調査に関しては、難民の生活再編とモバイルメディアの関係に焦点をあてた。ケニアを含むアフリカでは、今世紀に入ってから携帯電話が急速に普及しており、2011年現在の普及率は5割程度である。現在のアフリカはすでに「生活の一部となった」携帯電話を媒介に、インターネットやモバイルマネーサービス新たなサードスが展開するステージに来ている。モバイルマネーサービスとは、銀行口座をもたない人びとに対して、携帯電話を媒介に金融機関が送金や貯金などのサービスを提供するものである。これまでの現地調査の結果、ケニアのソマリア難民は携帯電話のヘビーユーザーであり、モバイルマネーサービスを活用した活発な経済活動を展開していることが明らかになった。そこで、ケニアの僻地に隔離された難民キャンプで20年間暮らしてきたソマリ系長期化難民が、貨幣と携帯電話という新旧二つの媒体のハイブリッドである電子マネーサービスを駆使してキャンプ外部の人びとと社会-経済関係を構築し、困難な状況における<よりよい生>を実現しようとする諸実践についての調査をおこなった。アフリカはモバイルマネーが最も拡大している地域である。世界銀行などの調査によれば、モバイルマネーの使用頻度が高い世界の20カ国中、15カ国がアフリカ大陸にあり、とくにケニアやスーダン、ガボンでは成人の40%以上がモバイルマネーを使用している。これはアフリカの人びとの銀行へのアクセシビリティが低かったことと、近年のモバイルメディアの急速普及現象に起因する。本研究の結果、ケニアの難民およびホストの生活再編の文脈においてモバイルメディアが重要な役割を果たしていることが明らかになった。今後はこの知見にもとづき、アフリカにおける紛争後平和構築とモバイルメディアの関係に焦点をあてた研究を実施する予定である。
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