2008 Fiscal Year Annual Research Report
西洋中世とイスラム世界の法概念の比較哲学的考察:トマス、アヴェロエス、ガザーリー
Project/Area Number |
20720001
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山本 芳久 Chiba University, 文学部, 准教授 (50375599)
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Keywords | 哲学 / 倫理学 / イスラム学 / 宗教学 / 思想史 / 法哲学 / カトリック / トマス・アクィナス |
Research Abstract |
本研究の研究目的は、別々に研究されることの多い西洋中世哲学とイスラーム哲学を同じ土俵に乗せて研究することによって、以下のような研究成果を得ることである。(1)思想史研究における空白部分を埋め、古代ギリシア哲学からイスラーム世界を経てラテン・キリスト教世界に至る哲学史の根本的な書き換えを行なう。(2)法の哲学的根拠づけという哲学の根本問題の一つに関して、比較哲学的観点から取り組む。(3)共通の地平の中で文明を形成していたとも言える「中世哲学」の時代に着目することによって、キリスト教文明とイスラーム文明との連続性と非連続性の詳細を明らかにする。 このような全体的構想の中で、平成20年度は、イブン・ルシュドの『法学と哲学との関係を定める決定的論考』についての綿密な読解を行い、以下のことが明らかになった。即ち、イスラーム法学においては、『クルアーン』や『ハディース』のみではなく哲学的な議論にも依拠しようとする試みに対する否定的な見解が根強く存在していたが、イブン・ルシュドは、啓示に基づいた法学と理性に基づいた哲学との調和を説き、哲学の探究がイスラームにおいて許されるものであるどころか、義務でもあることを主張した。彼は、「真理は真理と対立することはない。むしろ、〔哲学的〕真理は〔宗教的〕真理と一致し、その証となる」とも述べている。 従来、西洋中世哲学研究においては、イブン・ルシュドは、「哲学によれば偽であるところの多くの事柄が、信仰によれば真理である」と定式化されるいわゆる二重真理説を提唱した(ラテン・アヴェロエス主義の起源)と考えられていたが、それとは全く対照的な新たなイブン・ルシュド像が、本研究によって明らかになった。このような成果は、西洋中世哲学とイスラーム哲学との同時的研究による相乗効果の獲得という本研究の達成のための基本的な立脚点として、二年目以降の研究成果の獲得のための不可欠な出発点となる。
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Research Products
(4 results)