2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720051
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Research Institution | Tsurumi Junior College |
Principal Investigator |
大地 宏子 Tsurumi Junior College, 保育科, 講師 (80413160)
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Keywords | 宅孝二 / ジャズ / ソルフェージュ / 舞踊 / 映画音楽 |
Research Abstract |
これまで宅孝二の縁故についてはほとんど明らかではなかったが、堺市立中央図書館での調査により、彼の親戚によって同図書館に寄贈された宅家の家系図を入手できた。また、彼の祖父宅徳平は銘酒澤亀で財を築き、堺酒造株式会社の設立における中心人物であった他、阪堺鉄道(南海鉄道の前身)の敷設、公共事業への莫大な寄付、著名な大会社の重役など、明治期における堺市社交界および産業界の重鎮であったことも分かった。 当時、政府の高官や財界人との交遊を図ることを目的に、宅徳平ら酒造家をはじめ実業家たちの社交倶楽部として旭館(あさひかん・アサヒビールの由来)が開設されたが、風光明媚な花街に建てられたこの館は、芸妓らが通う富豪の遊場所としても知られていたようだ。宅孝二は伝記の中で、芸事を好み長唄の名手であった祖父や清元を得意とした父の影響で、芸者たちの音曲や踊りを幼少の頃から見物していたこと、また謡や仕舞や三味線を仕込まれたことを書き綴っているが、邦楽によって形作られた彼の最初期の音楽観は、恐らくこの旭館に由来するものと思われる。商業都市として栄え、茶人の千利休を生んだ堺の街に生まれ育った宅孝二の出自が明らかになったことは、その後の彼の音楽活動を理解する上で大きな収穫であった。 さらに、宅孝二が最初に奉職した東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)での教え子であった外山友子氏への取材により、彼が同校の女学生たちのために舞踊曲を作曲していた経緯などを具体的に知ることができた。彼が東京オリンピックでの女子の徒手体操の伴奏ピアニストを務めたり、舞踊の作品を数多く作曲したり身体の動きと音楽の関係について深い興味を寄せていたのは、この女高師時代での経験が背景にあったと思われる。なお、外山氏より寄贈された女学校時代の舞踊のテキストは、彼の舞踊曲の原点を知る上で貴重な資料となるだろう。
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Research Products
(2 results)