2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720054
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三浦 一朗 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 助教 (70466514)
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Keywords | 国文学 / 思想史 / 日本史 / 歴史意識 / 読本 / 軍書 / 歴史叙述 |
Research Abstract |
史学史ないし史学思想史において従来空白期間として扱われてきた近世中期について、歴史観より外延を広げた歴史意識という概念に基づいて再検討し、そこにうかがえる歴史意識の諸相を明らかにするという本研究の目的を達成するべく、研究の二年目である平成21年度は、まず南北朝の争乱、藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱などに関する読本、軍書など、資料の基礎調査と収集を行った。 また前年度からの調査と検討による成果の一部として、論文「歴史との対話-「白峯」論-」を学術雑誌『日本文芸論叢』第19号誌上に、「信義の行方-「菊花の約」論-」を学術雑誌『文化』第73巻第3・4号誌上に発表した。「白峯」については、秋成が『保元物語』の流布本や異本、また『本朝通紀』『保建大記』など、多くの軍書や通俗史書を参照していることが既に指摘されているが、前掲拙論では、崇徳院の造形に関する「白峯」の選択がそのいずれとも完全には重ならないことを指摘し、そこに、常識的な倫理道徳とその規準自体はあるべき理として認めると同時に、そうした理が通らない、あるいは理によっては割り切れない現実の理不尽さが歴史上において繰り返されるありように対する秋成の強い関心が窺えることを論じた。また「菊花の約」については、その時代背景が『陰徳太平記』を典拠とすることが指摘されている。拙論では、「菊花の約」に、信義という美徳を貫く人が報いられることの余りに少ない現実の理不尽さに対する憤りと嘆きが籠められていることを論じ、『陰徳太平記』を想起させる設定は、陰徳陽報の発想とは対極にある本編の作品世界において、アイロニカルな響きを強く帯びていることを指摘した。このように、読本を視座として見た近世中期歴史意識においては、いわゆる鑑戒史観や皇国史観とは異なり、人間の生をめぐる理不尽さや不条理さを歴史の中に見出していくような関心のあり方が窺える。本研究ではその一端を提示したに過ぎないが、それでも近世歴史意識に対する従来の見方を相対化し、修正する手がかりは得られたものと考える。
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Research Products
(2 results)