2008 Fiscal Year Annual Research Report
戦前期日本を中心とする<サラリーマン>の表象研究:日本モダニズム論再考
Project/Area Number |
20720064
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 貴宇 Waseda University, オープン教育センター, 助教 (70454121)
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Keywords | 日本文学 / サラリーマン / 文化研究 / 日本モダニズム / 近現代文学 |
Research Abstract |
本研究は1923年の関東大震災以降に顕現した都市大衆文化の担い手を<サラリーマン>という階層に設定することにより、近代市民社会の成立と付随して進展する生活水準の中産階級化の様態を、主に文学作品の中に見られる感性の変容から明らかにするものである。今年度は次の2点を中心に研究を行った。(1)1928年に創刊される雑誌『サラリーマン』分析(2)戦後の<サラリーマン>を代表すると考えられる小説、山口瞳『江分利満氏の優雅な生活』(1962)分析。 (1)に関しては、同誌の編集構成が戦後の週刊誌ブームを牽引する『週刊新潮』へと引き継がれていくのではないか、という仮説が知見として得られた。両誌ともに読者層を<サラリーマン>を対象としているが、前者には階級論的な観点で<サラリーマン>を分析しようとする傾向があり、これは昭和初年代におけるマルクス主義の席巻と不可分である。しかし、後者にはそのような社会科学的な視点は見られない。この相違は、1920年代と1950年代で<サラリーマン>層の量的増加が見られ、大衆化していくことと連動していると思われる。 (2)に関しては、「軽妙洒脱に描かれたサラリーマン小説」という従来の解釈に疑義を手呈するかたちで、同作品には「戦後」に対する違和感を抱えたまま<サラリーマン>として生きる「戦中派世代」の屈託が主要なテーマだと本研究は提唱する。特に、戦後の<サラリーマン>層を特徴づけるとされる「マイホーム主義」の背後には、「戦争」に収斂した「戦前」の記憶を想起させる事象からの断絶、特に従来の家族像であった「数世帯同居」から「核家族」へと移行する、社会的な変動との関連を指摘し得るとの知見を得た。
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Research Products
(1 results)