2008 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学におけるドメスティック・イデオロギーの流通と定着、多様性について
Project/Area Number |
20720077
|
Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
増田 久美子 Surugadai University, 現代文化学部, 准教授 (80337617)
|
Keywords | 米文学 / 19世紀アメリカ / ドメスティック・イデオロギー |
Research Abstract |
本研究の的は19世紀アメリカにおけるドメスティック・イデオロギーの流通と定着、およびその多様性について分析し、ドメスティシティという概念がいかに広範にアメリカ社会の文化形成にかかわっていたかを綿密に検討することである。ドメスティシティにかんする研究の多くが「白人・女性・中流階級」の文化や政治性に制限されてきたのにたいし、本研究は黒人男性作家の家庭小説を中心的に分析することによって、ドメスティシティが人種・ジェンダー・階級を横断して多様な人びとに共有あるいは流用されていたこと、また、このイデオロギーが個別の場においてそれそれ特殊な文化的政治性を持ちうることを論証する。 本研究で対象となった黒人男性作家によるテクストは、フランク・J・ウェッブの『ゲーリー家と友人たち』(1857)である。ドメスティック・イデオロギーとは19世紀アメリカ社会において家庭の内と外を分断する境界線、男女の領域を分界するレトリックとして認識されているように、その基盤は「家庭」という秩序化された女性の領域にある。ウェッブの小説には、表層的にそのような白人中流階級の家庭を模倣した黒人中流家庭が描かれているようにみえ、その描写は従来、白人の価値観の追従として非難されてきが、今回の考察により、実際にはたんなる模倣を超えた黒人独自の「黒人ドメスティシティ」が形成されていることが明らかにされた。テクストにおける黒人家庭は奴隷制や異人種間混淆という「汚濁」を排除しながら、人種暴動を契機にその「ホーム」は「要塞」、すなわち、自由黒人の処遇をめぐる人種闘争の場と化し、黒人ドメスティシティがアメリカ的市民性を付与するためのプロセスおよび空間となっているというあらたな視座がもたらされている。
|