2009 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学におけるドメスティック・イデオロギーの流通と定着、多様性について
Project/Area Number |
20720077
|
Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
増田 久美子 Surugadai University, 現代文化学部, 准教授 (80337617)
|
Keywords | 米文学 / 19世紀アメリカ / ドメスティック・イデオロギー |
Research Abstract |
本研究の目的は、19世紀米国におけるドメスティック・イデオロギーの流通と定着、およびその多様性の分析を通し、ドメスティシティという概念と米国社会の文化形成の関係を綿密に検討するにことある。ドメスティシティ研究の多くが白人女性の文化や政治性に制限されてきたのにたいし、本研究は黒人男性作家の家庭小説を主軸に分析することにより、ドメスティシティが人種・ジェンダー・階級を横断して多様な人びとに共有あるいは流用されてきたこと、また、このイデオロギーが個別の場においてそれぞれ特殊な文化的政治性をもちうることを論証した。 本研究で対象となったテクストは、フランク・J・ウェッブの『ゲーリー家と友人たち』(1857)である。ドメスティック・イデオロギーは、19世紀米国社会において家庭の内外を分断する境界線として、つまり、男女の領域を分界するレトリックとして認識されているように、その基盤は「家庭」という秩序化された女性の領域にある。ウェッブの小説には、そのような白人中流階級家庭を模倣した黒人中流階級家庭が表層的に描かれ、従来その描写は白人価値観の追従として非難されてきたが、実際には白人の模倣を超えた黒人独自の「黒人ドメスティシティ」の形成が認められたのである。テクストにおける黒人家庭は、奴隷制や異人種間混淆という「汚濁」を排除しながら、人種暴動を契機に「家庭」から「要塞」への変貌を遂げ、家庭という私的・生活空間が、自由黒人の処遇をめぐる人種闘争の場と化すことが明らかにされている。さらには、黒人ドメスティシティがアメリカ的市民性を付与するためのプロセス、および空間となっているという新たな知見をも得るにいたった。
|
Research Products
(1 results)