2008 Fiscal Year Annual Research Report
トニ・モリスンの小説における「母性」の表象と政治学
Project/Area Number |
20720083
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
戸田 由紀子 Sugiyama Jogakuen University, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (40367636)
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Keywords | アメリカ文学 / ジェンダー / 母性 / トニ・モリスン / 黒人女性 / アフリカ系アメリカ人 |
Research Abstract |
本研究の目的であるトニ・モリスンの小説において、「母性」という概念、言説、イデオロギーがどのような政治的レトリックとして用いられているかという「母性の政治学」を明らかにするために、当該年度は以下の研究を行った。 まず、「母性」のディスコースに関する当時の宗教誌、女性史、新聞記事、研究書、National Congress of Mothersの年次大会の演説などの文献やハリエット・ジェイコブスとハリエット・ウィルソンによって書かれた奴隷体験記を分析することによって、アメリカの白人/黒人の母性観が歴史的にどのように変化してきたかを考察した。特に、白人主流社会に19世紀前半から広まった「近代母性のイデオロギー」がどのような政治的レトリックとして黒人女性作家や政治活動家に利用されてきたか分析した。 そして19世紀から20世紀にかけてアメリカ黒人の母性観の変遷を踏まえたうえで、モリスンのBelovedとA Mercyのなかで、白人の近代「母性」のイデオロギーが強調された結果歴史的・状況的矛盾が生じていることを指摘し、モリスンが敢えてそれを選択した理由を考察した。 このように、モリスンの小説のなかで「母性」がどのように表象されているかを考察するだけではなく、アメリカ黒人女性の母性観の歴史的な変遷を踏まえ、白人主流社会の「母性」のイデオロギーと黒人との歴史的関係を検証することは、歴史的視座が欠如しているモリスン研究における「母性」の議論を補完できると考えられる。
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Research Products
(3 results)