2010 Fiscal Year Annual Research Report
トニ・モリスンの小説における「母性」の表象と政治学
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20720083
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
戸田 由紀子 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (40367636)
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Keywords | アメリカ文学 / トニ・モリスン / 母性 / アフリカ系アメリカ文学 / 黒人女性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、トニ・モリスンの小説において、「母性」という概念、言説、イデオロギーがどのような政治的レトリックとして用いられているかという「母性の政治学」を明らかにすることにある。当該年度は、昨年度まで行っていた19世紀から20世紀アメリカ主流社会における出産や育児の状況の検証結果と、「母性」の概念の歴史的変遷についての分析結果をまとめた。主流社会の母性観の調査と同時に、黒人女性の出産、育児、母性観の状況とその変遷についての検証結果もまとめた。そのうえで、黒人女性が白人「母性」のイデオロギーをどのように政治的に用いていたかを、黒人女性の奴隷体験記と、当時の新聞記事および演説の資料から考察した。また、19世紀に流布した「共和国の母」の理念と、その理念が促した女性や社会の様々な変革、そして当時「小説」が果たした役割について調査し、その結果どのような「母性」にまつわる文学的コンベンションが生まれ、定着するようになったかを考察した。現代黒人文学は、19世紀に登場した白人母性のイデオロギーをさまざまな形で批判しながら、独自の母性観を提示しているといわれているが、トニ・モリスンの小説における「母性」の文学的コンベンションを考察すると、それが白人への直接的告発を避けながら、奴隷制の残虐性を訴える手法として用いられていることが理解できる。この考察からモリスンが、「母性」の戦略が極めて有効に働くことを前提に物語を設定しつつ、現代アメリカにおいて人種間問題が今だにデケートな問題であり続けている現状を批判する手段としても利用していることを論じた。
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Research Products
(1 results)