Research Abstract |
本年度は,憲法18条に関する基礎的な研究を行った。同条のいう「意に反する苦役」については,強制労役一般と理解する学説と,強制労役一般ではなく社会通念上耐えがたい労役に限定する学説とが対立しており,前者が通説である。しかし,通説は,災害時の医師等に対する従事命令を正当化できないし,禁止すべき強制労役から徴兵制を除外する国際法とも整合しない。憲法18条は,「犯罪に因る処罰の場合」以外でも,合理的な理由のある強制労役を許容するが,徴兵制など一般人に耐えがたい苦痛を与える強制労役を特に禁止したものと解すべきとの結論に達した。 この18条解釈を前提にして,さらに,「裁判員制度」を考察した。同制度の合憲性については種々議論があるが,裁判員法が一般市民に課している一連の職責が基本権を侵していないか議論は未だ十分とはいえない。内心の自由との抵触は議論の対象となってきたものの,裁判員の職責を労役賦課の合理性という観点から検証した学説は意外に少ない。憲法18条に関する一般論を,裁判員の職責が「意に反する苦役」に該当しないかという具体的論点に適用して,同制度の合憲性を検証する必要がある。 その結果,死刑判決に関与し,重い守秘義務を担い,裁判員就任に拒否が原則認められない点で,裁判員制度は,憲法18条適合性を肯定できないという結論に至った。近時,裁判員制度を公民としての資質の陶冶に資するとして正当化する議論が登場している。しかし,現憲法は,共和主義ではなく,古典的リベラリズムの体系を示していると理解するのが自然である。憲法18条は,国家が人格・資質の陶冶を理由に被統治者を動員することを禁止することによって,被統治者の「人身の自由」を保護している。 来年度は,本年度得た知見を公表する作業を継続するとともに,憲法31条・32条を統合する「人身の自由論」の整理・分析を行い,本研究に一定のめどをつける予定である。
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