2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730045
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齊藤 彰子 Nagoya University, 大学院・法学研究科, 准教授 (70334745)
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Keywords | 不作為 / 共犯 |
Research Abstract |
本研究の掲げる、作為正犯者と競合する公務員の職務違反の不作為を、刑法上どのように評価すべきか、という課題に取り組むために、本年度は、公務員の不作為について正犯・共犯の評価を分ける基準について、従前議論されてきた作為義務の相違というメルクマールに限定せず、より広い視座の可能性を探究した。我が国においては、たとえば作為犯と競合する不作為を原則として常助とする見解も有力であるが、それは決して必然的な帰結ではない。現に、ドイツにおける学説状況は様相を異にしている。これらの比較・分析を通じて、犯罪のプロトタイプであるところの故意犯の成否という問題を念頭に置き、主として故意の不作為犯を検討の対象として、わが国の理論状況を省察する作業を行った。とくに、不作為者が私人ではない公務員の場合において、特別の命令権限や強制権限、さらには、そもそも法益侵害行為がなされないように情報を収集し、予防的に介入する権限を有することから、特別な考慮が妥当するか否か、その根拠は何か、という検討に重点を置いた。作為正犯者の背後ないし上位に位置し、私人とは異なる権限行使の法的可能性を有する公務員の不作為について、その刑法上の評価の判断に困難が伴い、現実の事件の解決が一義的に定まらない恐れがあることは、最近も、たとえば明石歩道橋事故に関して、当時の明石署副署長について、神戸地検が不起訴の判断をしたにもかかわらず、検察審査会が起訴議決を行い、強制起訴へ至った(2010年4月20日)ことにも示されている。これまでの研究においては、上述のとおり、故意の不作為犯を念頭に置いた基礎理論に重心を据えてきたが、実際上は、上記の明石歩道橋事件のように、犯罪結果の実現に対する公務員の過失的関与が問題となることも多い。来年度は、本年度までの分析結果に立脚しつつ、さらに実践的な応用領域として、過失犯について検討の対象を広げることとする。
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