2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730047
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 宜裕 九州大学, 大学院・法学研究院, 准教授 (70365005)
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Keywords | 損害回復制度 / 違法の統一性 / 私訴 / 犯罪被害者 |
Research Abstract |
1本研究の目的は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」によって創設された、「刑事手続を利用した損害回復制度」について、これまで十分に論じられてこなかった問題点を指摘した上で、より被害者の利用しやすい損害回復制度を確立すべく、同制度の合理的な運用指針を提示し、さらには立法(改正)提案を行うことであった。 2フランスでは、今日に至るまでの展開をみる限り、一定の場合に無罪判決と民事賠償が両立しうるかが一貫して争点となっていたが、被害者保護の強調からこの両立可能性を肯定するとたちまち違法の統一性の問題が浮上する。他方、ドイツにおいては、法秩序の統一性に配慮した刑訴法上の規定が散見されるが、付帯私訴制度自体は、他制度との関係の複雑さ及び手続の煩雑さ等からあまり活用されているとはいえない。 3わが国の損害回復制度は、犯罪被害者の負担軽減を目的とし、有罪判決後、簡易迅速な手続で民事賠償命令を可能にするものである。しかし他方で、本制度には、無罪判決の場合における民事賠償には一切配慮していないという決定的欠陥がある。即ち、違法の統一性の観点から、処罰を基礎づける刑法上の罪過と賠償を基礎づける民法上の罪過の異同を顧慮することなく、無罪判決に際して一律に同制度の利用が否定されている点は、改善を要するといえる。やはり、同制度は、犯罪被害者の権利擁護という観点からしても、一定の場合、無罪判決の場合にも機能しうるように改正されるべきである。
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