2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730081
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
名津井 吉裕 Osaka University, 高等司法研究科, 准教授 (10340499)
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Keywords | 当事者適格 / 訴訟担当 / 権利能力なき社団 / 当事者能力 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の研究実績の延長上にある課題のいくつかについて、研究し、その一部を公表することができた。昨年度の学会で報告し、民事訴訟雑誌に掲載した「法人でない団体の当事者適格と訴訟担当構成」では、民訴法29条を法人でない団体に適用することの意義を、団体の当事者適格ににつき訴訟担当構成を採用する場合と、固有適格構成を採用する場合のそれぞれについて考察し、結論として、訴訟物たる権利関係につき、個々の事件を処理するのに必要な限りで、当該団体に権利義務が帰属する旨の判決を許すことに求めるべきことを指摘した。このような指摘は、入会権の対外的確認訴訟を固有必要的共同訴訟とする判例法理を前提とした考察から導かれているが、最判平成20年7月17日民集62巻7号1994頁は、入会権者の一部が入会権の対外的確認訴訟の提起に同調しない場合、これを被告として訴訟を提起することを適法とする判断を示した。この帰結は、入会団体の財産帰属形式(総有)には一切手をつけないまま、入会権者の一部のみによる提訴を適法とした点において、従来の判例法理と緊張関係にある。本研究では、このような帰結がいかなる理論構成によって説明できるかについて考察を加え、共同所有者間の内部紛争において認められてきた判例法理を応用することが、その解決の糸口になりうることを指摘した。 他方、権利能力なき社団の財産に対する金銭執行においては、執行の対象となる財産が不動産である場合、我が国の不動産登記法が、社団名義の登記を許さないことから、社団に当事者能力・当事者適格を認め、金銭借権に基づく給付の訴えにおいて請求認容判決を得ても、それを債務名義として、社団財産たる当該不動産に対して強制執行をすることは不可能という帰結に至る。しかし、下級審裁判例ではあるが、この点に関する興味深い判断をしたのが、東京高判平成21年4月15日(判例集未搭載、原審:東京地判平成20年11月17日判タ1295号306頁)である。判旨は、社団に対する金銭債権の債権者は、社団財産たる不動産につき登記名義を有する第三者に対する承継執行文の付与を受けて不動産執行をすることはできないとしつつ、真正な登記名義の回復を原因とする社団の第三者に対する登記請求権を代位行使して、社団代表者に登記を戻した上で強制執行すべきとした。判例は、従来、社団財産たる不動産については、代表者の個人名義の登記を許してきたが、この裁判例はこの枠組みを維持したことになる。しかし、本研究では、この従来の判例自体が、特定物引渡請求権に対する強制執行の枠組みを、金銭執行に転用し、社団代表者が登記名義を有する不動産に対する強制執行を許容している点に着眼し、この法理の一般化の可能性を指摘するとともに、上記下級審裁判例に対して、批判的な検討を加えている。 本年度には、以上のほか数件執筆したが、年度内に公表されるに至らなかったものがある。このうち、特に、社団代表者が、社団財産たる不動産につき、受託者として所有する地位にあることを認めた最判昭和47年6月2日民集26巻5号957頁について考察を加えたものが、本研究に関係する。
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