Research Abstract |
本研究は,地域政策の評価分析のための経済地理モデルの構築を目的としているが,最終年度である平成23年度は地域経済と国際経済の統合モデルの構築,実証分析と地域政策の検討を中心に行い,以下を明らかにした. 1.賃金格差を内生化した二国一部門二要素モデルを構築し,保護貿易の価格指数・厚生への影響を分析した.その結果,(1)差別化財の代替の弾力性が十分小さい場合には,Venalbes (1987, Economic Journal)と同様の「価格低下効果」が生じうること,(2)代替の弾力性が実証研究で得られているレベルの値の場合には,保護貿易は価格指数を上昇させ,厚生を低下させることが分かった. 2.地域政策評価への応用研究の第一としては,これまでのモデルに企業に対する従量税・従価税を導入し,それがもたらす地域経済への影響を分析した.その結果,(1)同質財が交易される場合には,税収の分配方式に関わらず,従価税は企業立地シェアを変化させないが,従量税は大地域への集積を加速させること,(2)同質財が交易されない場合には,課税方式に関わらず,地域内均等分配は企業立地シェアを変化させないが,地域間均等分配は大地域への集積を加速させることが分かった. 3.応用研究の第二としては,温暖化ガス排出権取引を導入したモデルを構築し,排出権取引やカーボン・オフセット・プログラムといった環境政策がもたらす地域への厚生効果について分析した.その結果,吸収源が豊富な地方地域は,クレジット収入による所得増大効果が働く一方で,都市部より生産がより不利になることで企業退出効果が働き,場合によっては地域間格差が拡大する場合があることが明らかになった. 以上の内容は,これまでの新経済地理・空間経済学の研究において,明らかにされていなかった,あるいは取り組まれてこなかったものであり,都市・地域政策において重要な意義を持つと考えることができる.
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