2010 Fiscal Year Annual Research Report
インフレ・ターゲティング下での金融政策行動に関する実証研究
Project/Area Number |
20730190
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
立花 実 大阪府立大学, 経済学部, 准教授 (70405330)
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Keywords | 経済政策 / 金融政策 / インフレ・ターゲット / 政策反応関数 / VAR / 実証分析 |
Research Abstract |
本研究は、インフレ・ターゲティング下での金融政策行動を実証的に明らかにすることを目的としている。21年度まではテイラー・ルール型の政策反応関数を推定してきたが、そこから得られる含意は限定的なものだった。そこで本年度ではVARモデルを用いてマクロ・ショックを識別し、それらのマクロ・ショックに対する政策反応を推定した。対象国はオーストラリア・カナダ・イギリス・ニュージーランド・スウェーデンの5カ国とし、それらの中央銀行が各種のマクロ・ショックに対して政策金利をどのように反応させているかを検証した。その結果、いずれの国も総需要ショックに対してはインフレ率と生産の両方が安定化するように政策対応をしていることが確認できた。すなわち、正の需要ショックに対して、政策金利を引き上げ、なおかつ、その政策金利の引き上げ幅はテイラー原理を満たすような十分な大きさであった。しかし最も重要な論点は総供給ショックに対する政策反応を見ることである。なぜなら、供給ショックは物価の安定と景気の安定の2つの目標間にトレード・オフを生じさせるからである。分析の結果、物価水準を引き上げる一方で生産を落ち込ませる好ましくない総供給のショックに対しては、中央銀行は当初は引き締めを行うが、次第に金融緩和の方向に政策を転換するという結果が得られた。この結果は、たとえインフレ・ターゲットを導入しても、厳格に物価の安定を追求するよう運営されるのではなく、景気の安定に対しても配慮する柔軟な枠組みとして運営されていることを示唆している。米国や日本でインフレ・ターゲットの導入に反対する理由の一つとして、インフレ・ターゲティングは物価の安定を追求するあまり景気の変動を大きくするという懸念がある。本研究の結果は、その意見が実際には当てはまらず、インフレ・ターゲットを導入しても景気は不安定にならないことを示唆している。
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