2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730350
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
尾崎 寛直 Tokyo Keizai University, 経済学部, 准教授 (20385131)
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Keywords | 環境被害 / 補償・救済制度 / 大気汚染 / ぜん息 / 医療費 |
Research Abstract |
当初の「研究実施計画」通り,東京都の大気汚染ぜん息患者医療費助成条例(以下,条例)の効果を検証する大規模な調査を実施した。これは「研究の目的」で提示した問題意識から,条例施行後半年程度を目処に対象者への調査を実施することとし,条例施行前後の患者の身体面・生活面・精神面の変化を含めた動態分析を試みたものである。計画通り4月末までに協力医療機関約100院所に調査票を配布し,(患者の名簿は入手できないため)医療機関に通院してきた患者に対して,主治医または看護師,事務職員から手渡しによる配布を行った結果,8月末までに736通(有効票652通)を回収した。9月より回収票の入力作業を行い,秋以降に分析作業を行った。年度末にさしあたりの調査の分析を含めた報告書を発行することができた。 調査の結果,条例の適用前と後で,大気汚染による健康障害者の「マイナス経験」(病気に起因する負の連鎖。たとえば,受診抑制による疾病の悪化など)が大きく変化したことがわかった。それはとくに,若年層や重症度の高い患者の層においてより鮮明に数値に表れている。これらの層はマイナス経験が累積して後々に膨大な格差を抱えうるため,早い段階で条例の救済を受けられたことが「負の連鎖」を断ち切る上で効果があったことを示している。また,今回の条例だけでは健康障害者の生活再建,社会復帰には必ずしも十分ではない側面もデータから読み取れた。このように,新たな救済条例の効果と限界を検証する初めての,有意義な研究ができたと考えている。 平行して今年度は,他の環境被害の地域(水俣,富山,大阪,尼崎)の救済制度および健康障害者の療養支援の事例を調査研究によって特長を明らかにする基礎研究を行うとともに,公害以外の職業病,薬害での患者の補償・救済制度を横断的に比較検討する研究を行った。これについては管見の限り,同様の研究業績は見あたらない。5月には後者の研究成果をふまえたシンポジウムを行った。
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Research Products
(5 results)