Research Abstract |
これまで始新世/漸新世(E/O)境界以後に海生珪藻類が急増した結果,大型海生哺乳類の進化が促されたという事実が知られていたが,どのような原因で起きたかは未解明であった.また,どのような珪藻が急増したのかは明らかでなかった.そこで本研究では,海洋一次生産の25%を担い,沿岸湧昇流域に多産する海生珪藻Chaetoceros属の休眠胞子化石を分析することにより,過去4000万年間の北部・赤道太平洋域と北部・赤道大西洋域,北極域の堆積物サンプルを分析し渦鞭毛藻などの変遷と比較することにより,以下のような湧昇流変遷史と陸上環境変遷にも関連した海洋生物進化の原因を明らかにした. 1)E/O境界において南極や北極域の寒冷化が進み海洋熱塩循環が変化し,季節的沿岸湧昇が,間欠的に発生する地域が増加しChaetoceros属が多様化・急増化したことが明らかとなった.さらに,この時代に湧昇域が発達し,Chaetoceros属が急増したことによりカイアシ類などの動物プランクトンが増加し,その結果ヒゲクジラ類をはじめとする大型海生哺乳類の多様化が進んだ. 2)約850万年前に,北太平洋広域において休眠胞子化石が同時に急増していることが明らかになった.これらは,寒冷化により沿岸湧昇が発達し栄養環境が相対的に富栄養化したことを示唆し,アジア域の乾燥化やヒマラヤ山脈の上昇などによる珪藻の分裂に必須な栄養素である鉄・シリカなどの栄養素がダストエアロゾルや,河川流出により大量に運搬された事実と呼応している. これらの結果から,約4000万年以降の海洋熱塩循環の変動によって,沿岸域が富栄養化し,Chaetoceros属や他の珪藻類,コンブなどの藻類が急増.多様化し,これらを餌とするカイアシ類や生態系の頂点に立つ大型捕食者の進化も促された可能性が大きいことが明らかとなった.
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