2009 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡な分子状態下で起こる超高速励起エネルギー輸送現象の解明とその非線形分光
Project/Area Number |
20750010
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金 賢得 Kyoto University, 大学院・理学研究科, 助教 (30378533)
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Keywords | 半量子MDシミュレーション / 水のダイナミクスと構造 / 水素結合組換ダイナミクス |
Research Abstract |
液体水の量子動力学数値実験は、その自由度の多さと複雑さからいまだに確立していない。本研究では、液体水内で水素の波束ダイナミクスを記述できる新しい半量子的分子動力学数値実験法を開発した。これは、ゼロ点振動や波束非局在化に代表される水素核の量子効果を取り入れるために、各水素原子をガウス関数型の波束で表現し、その運動方程式を導出することで初めて可能となった。開発された数値実験は完全に古典的な水の分子動力学数値実験と計算負荷にほぼ差がなく、従来の半量子分子動力学数値実験よりずっと計算負荷が軽い。それにも関らず本研究で開発された半量子的分子動力学数値実験は、他の計算負荷の高い従来の半量子分子動力学数値実験結果をよく再現できる。具体的には、水素の量子効果により(1) 水構造が弱化する、(2) 拡散係数が増加する、(3) OH振動モードのIRスペクトルがred-shiftする。さらにOH振動モードより大きな周波数に、水素波束のbeating運動に由来する新しいピークを発見し、水素の量子効果を直に観測できる可能性があることを提案した。 水の複雑で特異なダイナミクスは、水素結合の動的組み換えに密接に関係していることが知られている、そこで、今回開発した半量子分子動力学数値実験を用いて、水素の波束ダイナミクスが、水素結合のダイナミクスにどのような影響を与えているかを調べた。その結果、波束ダイナミクスが水素結合の記憶消失を加速させ、水素結合のダイナミクスをより複雑にマルチタイムスケール化させることを発見した。さらに、波束ダイナミクスと液体水内の大きな構造変化に、「波束が非局在化する時、水素結合の大きな組み換えが生じる」という有意の相関があることを示した。 上記の結果は、液体水のダイナミクスだけでなく、水中の化学反応や生体分子ダイナミクスを理解するにあたり、新しい化学的物理的知見を与えうるものである。
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