Research Abstract |
酢酸菌の酸化発酵は,酸化反応産物をほぼ定量的に蓄積するユニークな代謝系であるが,その反応は呼吸鎖に組み込まれており,物質の酸化に共役してエネルギー(プロトン駆動力)を産生する。本研究課題では,酢酸菌による酸化発酵生産とエネルギー代謝の関連を解析する。プロトン駆動力を回転エネルギーに変換するべん毛モーターは,エネルギー消費系として見ることができる。酢酸菌の酸化発酵とべん毛モーターを解析することによって,発酵生産とエネルギー代謝の関連についての理解を深めることが,本研究の目的である。単に物質代謝系酵素を操作する代謝工学から,エネルギー代謝などの細胞生理学を見通した代謝工学へと発展させたい。平成21年度の実績は以下の通りである。 ゲノムが解読された酢酸菌Gluconobacter oxydans 621H株には,べん毛モーターのプロトン流を担うサブユニットをコードするmotB伝子が2つ存在するので,この2つのmotBホモログを解析した。G. oxydansには,motBホモログとしてGOX127とGOX240を見いだすことができるので,それぞれの遺伝子の破壊株を作製した。また,pBBR1MCS-5をベクターに用いて相補プラスミドを作製した。ΔGOX127株は遊泳能を失ったが,ΔGOX240株は野生株並みに遊泳した。ΔGOX127株は,GOX127-GOX126 (motA)をadhプロモーターでドライブする相補プラスミドの導入により遊泳能を回復した。このΔGOX127株は,野生株と比べて,べん毛をよくつくる条件下で若干生育が良好であったが,べん毛をあまりつくらない条件下では生育に違いは見られなかった。このことから,べん毛モーターの回転にエネルギーを消費しないΔGOX127株は,その分生育にエネルギーを割くことができると考察した。これから,野生株と比較しながら,このΔGOX127株の酸化発酵能やエネルギー代謝に関する解析を進めていく。また,本菌の走性(どのような条件に向かって遊泳するか?)に関しては,平成21年度に実験条件の整備を行ったので,これから解析を進める。
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