Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大槻 美佳 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (10372880)
生田目 美紀 筑波技術大学, 産業技術学部, 教授 (20320624)
秋田 喜美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20624208)
佐治 伸郎 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授(テニュアトラック) (50725976)
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Outline of Annual Research Achievements |
語彙習得の問題に関して近年注目されているのが身体性と類像性(iconicity)の役割である.類像性とは,形式と意味の間に感じられる類似性と定義される(Peirce, 1932).子どもは言語学習がはじまる以前の乳児期から視覚,聴覚,触覚などの異感覚を脳内で対応づけ,統合することができ,音象徴(「タケテ」が尖った図形と結びつくように,音と意味が偶然を越えた関係を持つ現象)やジェスチャーに代表される類像性が言語習得初期に非常に重要であるという音象徴ブートストラッピング仮説(Perniss & Vigliocco, 2014; Imai & Kita, 2014)は多くの研究者に支持されている. 他方で異言語比較研究では,身体とのつながりが強いオノマトペでも,個別言語の音韻体系に大きく制約された恣意性をもつことも示された(Saji et al., 2019).このことは,身体に接地しながらどのように記号の抽象化が進んでいき,子どもが言語習得の過程でどのように抽象的な概念を身体化していくのかという問いこそが重要であることを示す.本研究では,こういった記号接地問題(Harnad, 1990)と呼ばれる問題を解明するために,音象徴の進化の過程に焦点をあて,生物学的要因を基盤とする類像性が文化的,言語学的な要因とどのように相互作用するのかを,言語学,認知心理学,数理心理学,神経心理学,フィールド言語学の学際的な共同研究によって,多角的,多層的に明らかにするため,言語共通の音象徴性と言語固有の音象徴性を作り出す要因の同定や聴覚障がい者の音象徴性に関する調査・分析を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
I)言語共通の音象徴性と言語固有の音象徴性を作り出す要因の同定,のテーマにおいては日本語・英語・チェコ語の各言語の話者が, 触覚や移動形態のモダリティにおける刺激に対してどのような特徴を見出し,それに対してどの音を用いて表すかという,意味評定と音産出が対応した音象徴データの収集準備を始めるべく刺激素材の作成と修正,日本における予備実験を行う。II)音象徴性の感覚の発達過程の検討, のテーマにおいては日本語,英語,トルコ語の異言語比較発達研究を行う.対象年齢は2歳半と5歳の2群とし, 提示刺激の検討を開始する. III)聴覚障がい者の音象徴敏感性の検討, 音象徴を感じさせるのは周波数などの音響的な要因なのか,言語音を発生させる口腔や唇の調音的運動なのかは,言語学や認知科学の分野で長く議論されているが,決着がついていない.聴覚障がい者が残された聴力に関わらず音象徴を感じるとしたら音象徴の感受性には発声運動によりもたらされる概念との類像性が重要ということがわかり,音象徴進化仮説A-Cに対しても重要な示唆を与える.I)により作成した刺激を用いて予備的に調査を実施する.IV)音象徴の脳内基盤の検討, 健聴乳幼児と反対の過程,つまり失語という言語の喪失の過程から音象徴進化仮説の検討をする.音象徴を感じる脳内機序と損傷脳における言語の研究では,語想起障害が出現しても,オノマトペは他の語よりも残存しやすい(障害されにくい),あるいは,語の想起ができない場合,様々なヒント(語頭音や類似語など)の中で,オノマトペが他の語よりも有効なヒントとなりえることなどが古くから報告されており,オノマトペが,恣意性の高い一般語彙と異なる側面を有していることを示している.単独で限局した病巣の失語症患者を対象に,オノマトペ,恣意性の高い語群について,理解および想起を検討する.
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Strategy for Future Research Activity |
I)言語共通の音象徴性と言語固有の音象徴性を作り出す要因の同定のテーマにおいては日本語・英語・チェコ語の各言語の話者が, 触覚のモダリティにおける刺激に対し,どのような音韻的な特徴を持つ音を用いるのかという,意味評定と音産出が対応した音象徴データの収集を行い刺激素材の作成と修正をする。II)音象徴性の感覚の発達過程の検討, のテーマにおいては日本語,英語などの異言語比較発達研究を行う.提示刺激の検討準備をする. III)聴覚障がい者の音象徴に関する回答を検討することで, 音象徴を感じさせるのは周波数などの音響的な要因なのか,言語音を発生させる口腔や唇の調音的運動なのかは,言語学や認知科学の分野で長く議論されているが,決着がついていない.聴覚障がい者が聴力に関わらず音象徴を感じるとしたら音象徴の感受性には発声運動によりもたらされる概念との類像性が重要ということがわかり,音象徴進化仮説A-Cに対しても重要な示唆を与える.I)により作成した刺激を用いて予備的に調査を実施する.IV)音象徴の脳内基盤の検討, 健聴乳幼児と反対の過程,つまり失語という言語の喪失の過程から音象徴進化仮説の検討をする.単独で限局した病巣の失語症患者を対象に,オノマトペ,恣意性の高い語群について,理解および想起を検討する.
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