2021 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical re-articulation of anthropology and critical social movements for Indigenous Studies emergent in Japan
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20H00048
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
太田 好信 九州大学, 比較社会文化研究院, 特任研究者 (60203808)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬口 典子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (10642093)
辻 康夫 北海道大学, 法学研究科, 教授 (20197685)
松島 泰勝 龍谷大学, 経済学部, 教授 (20349335)
池田 光穂 大阪大学, COデザインセンター, 名誉教授 (40211718)
冨山 一郎 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (50192662)
加藤 博文 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 教授 (60333580)
北原 次郎太 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70583904)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 先住民研究 / 遺骨返還 / 修復的正義 / 批判的社会運動 / 脱植民地化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、次の二つの領域での活動を架橋することを目標としている。① 海外の先住民族研究と日本の先住民族研究、② 社会運動と学術研究。令和3(2021)年度も、コロナ禍の影響を受け、一部の例外はあるものの、①を目標にした海外調査は困難であった。そのため、①については、海外の研究者との間で遠隔による会議を開催し、令和4(2022)年度以降の海外調査にむけての準備をおこなった。 本年度の研究では、②の課題、すなわち国内の社会運動(先住民族運動)と学術研究との架橋を目指した。この関係は互恵的とはいえず、きわめて対立的ですらある。その理由は、学術が「学問の自由」という思想を誤解し、社会的責務の一部として説明責任を十分に果たしてこなかったからであろう。たとえば、アイヌ民族と琉球民族による遺骨返還運動と学術領域との関係をみれば、前者の後者に対する不信と疑念は根強い。この関係を放置すれば、社会における科学への信頼は揺らぐことになる。 本研究では学術界に関わる者として、この関係について実態(参与)調査をしてきた。その成果を、学会の場(分科会など)だけではなく、広くマスコミを通した研究成果の社会還元に重きを置いた。また、ラポロアイヌネイションの活動のように、アイヌ民族は遺骨返還から先住権(にもとづく漁業権)獲得へと進む動きをみせているが、この新しい社会運動の目標にも着目している。 ②のテーマとの関連では、社会運動と学術とが複雑な関係をもつ「水俣病」の歴史を参照点とするため、あらたに熊本大学(慶田勝彦教授)との間で合同研究会を開催し、今後の連携を模索する端緒を得た。 本年度の成果として、遺骨返還運動の実態から見えたのは、未来にむけた学術と社会との関係を考えるとき、学術界の社会的(説明)責任が先行することである。過去の未決の課題と向き合うことなしに、学術は未来に進むことができないだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当初の計画では、令和3年度も海外における先住民族研究関連施設や先住民族研究者を訪問し、研究動向を調査することが大きな目標であった。しかし、コロナ禍の影響により、海外渡航がきわめて困難になり、代替の研究方針を打ち立てることにした。 まず、批判的社会運動と学術との関係についての考察として、国内の遺骨返還運動と学術界(広義の人類学)との関連を取り上げた。そのため、当初の計画から遅れてしまったことも否定できない反面、小刻みな成果報告をおこなった。第55回日本文化人類学会研究大会では、分科会「遺骨返還運動からの贈与 文化人類学はそれにどう応えるか?」で代表者と分担者3名が論文を発表した。また、学術界からの説明責任として、那覇市県立美術館博物館でのシンポジウム開催(代表者による基調講演、分担者全員がディスカッサント)、沖縄タイムス紙の協力(研究参加者による連載記事の掲載)のもと、マスコミを通した研究成果の還元をおこなった。遺骨返還運動は過去の社会的不正義の是正を求める。しかし、学術界は罪責を認めず、その求めに誠実に向き合ってきたとはいえない。そんな歴史を前に、本研究の成果発表には沖縄県内だけではなく本土からも反響があった。 海外での調査研究が困難な状況を補う目的で、合計3回のリモートによる会議を開催した。チップ・コルウェル、マイケル・ブレイキー、ニール・タシマ氏らと遺骨返還運動、先住民族研究の現状などについて議論を重ねた。これは、令和5(2023)年度夏に開催予定の国際シンポジウムでの協力も視野に入れている。 社会的不正義とは、個人の罪責から生じるわけではなく、不正義があらかじめ構造化された社会における不利益を被る者と受益者との関係をいう。この是正には、受益者側の自覚が不可欠である。これは、遺骨返還運動の学術への批判から明らかになった点である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4(2022)年度は、コロナ禍の収束がいまだに不透明であるなか、令和3(2021)年度と同じく、海外調査と国内調査の二本立てによる計画立案をしなければならない。 海外調査が可能になった場合、次のような研究調査を実施する。太田と池田は、コロラド州(デンバー市)、瀬口はミシガン州(アン・アーバー市)を訪問、博物館と先住民族研究の実態を調査する。松島はハワイ州(ホノルル市)で同様の目的で、調査をおこなう。また、令和5(2023)年度夏に開催予定の国際シンポジウム参加要請のため、招聘者予定者との連携を確保する。 海外調査の実施が引き続き困難である場合、国内での学術界と先住民族運動との関係について実地調査をおこない、適宜、その成果を学会発表、シンポジウムの開催など、迅速に発表する。すでに、令和4年6月開催予定の第56回日本文化人類学会研究大会(明治大学)では分科会「返還と関係性:脱植民地化の再創造にむけて」を組織している。また、同研究大会の一部として、これまでのアイヌ民族研究のあり方への反省と未来への展望を視野にいれた企画もある。(この企画には、代表者ならびに研究分担者も参加している。)今後、学術と先住民族運動との関係を結びなおす端緒となる可能性があり、注目に値するだろう。 また、琉球人遺骨返還運動は、沖縄県埋蔵文化財センターに保管されている遺骨の再風葬を求めている。アイヌ民族にとっても、先祖の遺骨が略奪されたという事実は、過去における社会的不正義の象徴となっている。学術界も「学問の自由」を理由に守勢に回るのではなく、その是正にむけともに立ち上がる必要があるだろう。本研究では北原、冨山と辻の三人を中心に、個人の罪責を追及する(刑事的)正義ではなく、社会における受益者としての自覚を促す社会的正義の理論化を試みる。
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Research Products
(14 results)