2020 Fiscal Year Annual Research Report
「治療的司法」と問題解決型裁判所 ~制度改革のための理論構築と立法提言
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20H00052
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
正木 祐史 静岡大学, サステナビリティセンター, 教授 (70339597)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相澤 育郎 立正大学, 法学部, 助教 (90715393)
赤池 一将 龍谷大学, 法学部, 教授 (30212393)
井上 宜裕 九州大学, 法学研究院, 教授 (70365005)
金澤 真理 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (10302283)
木下 大生 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20559140)
佐々木 光明 神戸学院大学, 法学部, 教授 (70300225)
高橋 有紀 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (00732471)
高平 奇恵 東京経済大学, 現代法学部, 准教授 (30543160)
土井 政和 九州大学, 法学研究院, 特任研究員 (30188841)
中村 悠人 関西学院大学, 司法研究科, 准教授 (90706574)
前田 忠弘 甲南大学, 法学部, 教授 (60157138)
丸山 泰弘 立正大学, 法学部, 教授 (60586189)
水藤 昌彦 山口県立大学, 社会福祉学部, 教授 (40610407)
森久 智江 立命館大学, 法学部, 教授 (40507969)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 治療的司法・法学 / 問題解決型裁判所 / 犯罪行為者処遇 / 刑事司法 / 社会福祉 / 連携 / 地域再犯防止推進モデル事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
理論的研究の面では、例会での森久智江「治療法学(Therapeutic Jurisprudence:TJ)の理論的検討」報告を契機として、治療的法学/司法(TJ)をめぐる現状と課題の分析に係る議論を行い、TJは治療的価値と他の価値との合致点を求め、そのような合致点は真の司法改革に繋がるものと考え得るが、他方でその合致点は「支援の輪」なのか「監視の網」なのかという問題があること、また、日本において「再犯防止」の文脈で語られることによる課題と困難が明らかにされた。 また、比較法・理論的視点からのものとして、丸山泰弘「薬物自己使用を取り巻く世界の動向:ドラッグ・コートの展開と課題」および石田侑矢(研究協力者)「アメリカにおける問題解決型裁判所の展開と課題」の2報告を基にした検討を行った。 被疑者・被告人段階におけるいわゆる入口支援については、森久「「入口支援」とは何か?」、研究協力者(検察官)「検察官の起訴裁量と入口支援」、土井政和「司法と福祉の連携を巡る政府の対応(入口支援を中心に)」、水藤昌彦「地域生活定着支援センターによる被疑者・被告人段階の支援」の各報告を得て実態・理論の両面における総合的な検討を行った。 実態調査に関わる検討としては、例会報告として高橋有紀「千葉県地域再犯防止モデル事業と「提案書」について」を得たことから、調査対象の1つとして地域再犯防止推進モデル事業を選択し、水藤「法務省・地域再犯防止推進モデル事業の実施結果の概要調査」による基礎的まとめを確認したうえで、各自治体によるモデル事業の実施結果をまとめて報告、総覧していった(埼玉・奈良=高橋/千葉・鳥取=水藤/神奈川・山口=木下大生/京都・北九州市=赤池一将/愛知・名古屋市=正木祐史/秋田県・牛久市・東京都・滋賀・京都市・長崎・熊本・岩手・茨城・兵庫・香川・奄美市=研究協力者2名)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、検察庁(試行モデルによる社会福祉士配置庁)、刑事施設(分類課職員及び社会福祉士等)、保護観察所(更生緊急保護事前調整モデル試行検察庁を含む)、全国就労支援事業者機構・各県就労支援事業者機構、更生保護施設などに対してインタビュー調査を実施し、「司法と福祉の連携」の取組みの進展により刑事司法にどのような修正と変容が生じつつあるかを明らかにする予定であった。また、「問題解決型裁判所」の実態把握のため、アメリカにおけるドラッグ・コート、メンタル・ヘルス・コート、DVコート、ホームレス・コートや、オーストラリアの近隣司法センターなどを対象に、当地での実態調査を行い、「問題解決型裁判所」の現実の運用動向・実態や運用にあたっての課題の析出を行う予定であった。しかしながらCOVID-19への対応による移動制限が課せられた結果、現地調査ができなくなったため、調査による解明が困難となった。 他方、素材を地域再犯防止推進モデル事業の実施結果に求め、事業実施担当者の陪席の下、各自治体の取組みを総覧・分析することにより、実態調査の一助とした。また、いわゆる入口支援については、研究協力をしていただいた検察官による現場実態に係る報告を含めた実態・理論の両面にわたる総合的な検討を加えることができた。 理論的研究および比較法研究については、治療的司法/法学の理論的分析に着手したほか、アメリカ合衆国を中心としたドラッグ・コートや問題解決型裁判所の動向と課題に関する分析を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗状況にやや遅れがみられることから、例会(研究会)の開催頻度を2か月に1回前後まで上げることにより、研究をより強力に推し進めることとしている。 実態調査の面では、地域再犯防止推進モデル事業の検討に着手しており、前年度までに実施計画を共有していない自治体分を例会にて報告・共有したうえで、その中からいくつかの自治体における取組みをピックアップして聞取り調査を実施する予定である。また、COVID-19の影響如何に左右されるところはあるが、人流抑制が緩和され次第、夏季・冬季・春季の休業期間を中心に、当初研究計画で予定していた国内外における実態調査に着手する。 理論研究の面では、治療的司法/法学の理論的分析への着手を踏まえ、「治療的司法」が刑罰の賦課を必ずしもその前提とはせず、犯罪行為の背景や原因への対応を行おうとするものであることから、従前の刑事司法のありように根本的な改革を迫るものとなるため、従前の刑罰論との接続・整合性に関する検討が必要となる。また、治療的司法の導入が必ずしも従来型の刑事司法を全面的に解体するものではないとすれば、従来の捜査・刑事裁判手続との接続・整合性や手続保障についても検討する必要があるほか、処遇理念・理論との関係整理も行わなければならない。 比較法研究は、国外実態調査のほか、具体的な問題解決型裁判所の仕組みを持つアメリカ合衆国についてはすでに着手・検討が進んでいるため、オーストラリアの実態と理論に係る検討を加える。また、そのような仕組みのないドイツおよびフランスなどについて、どのように刑事司法と福祉の連携に取り組まれているのか、その実態と課題について調査・検討を加えていく。
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Research Products
(31 results)