2021 Fiscal Year Annual Research Report
Non-Equilibrium Thermodynamic Conditions for Emergence of Life Revealed by Minimal Cells
Project/Area Number |
20H00120
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 正幸 東北大学, 理学研究科, 教授 (60251485)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川勝 年洋 東北大学, 理学研究科, 教授 (20214596)
佐久間 由香 東北大学, 理学研究科, 講師 (40630801)
浦上 直人 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (50314795)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミニマルセル / 非平衡熱力学 / 生命の起源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生命の最も基本的な性質;1)外部から原料を取り込んで増殖に必要な分子群を合成し(代謝)、2)情報分子にコードされた情報をもとに膜が成長・分裂(情報の転送に基づくベシクルの再生産)する単純なシステム(ミニマルセル)を構築することにより、生命を支える物理法則を解明することを目的とする。これまでの研究により、膜分子としてAOT、情報高分子としてPANI-ESを用いたエネルギー代謝と鋳型重合による情報の転送に基づいてベシクルが成長・分裂する系の構築に成功している。この系を、持続的に自己生産を行うミニマルへと展開するためには、膜(面積)の成長と同期したベシクルの体積成長を実現する必要がある。2021年度はこの点に重点を置いて研究を進めた。 浸透圧差を利用したベシクルの体積増加は、ベシクル内部の溶質が時間とともに希釈されるの持続的な体積増加が望めないが、外水相に膜透過性をもつ溶質を加えることにより長時間にわたって体積成長させることに成功し、この系を用いて持続的に再生産するミニマルセルの構築に成功した。また、このベシクルの成長では、外水相から外膜に取り込まれたAOT分子がflip-flopにより内膜に移動するが、この膜分子の取り込み速度とflip-flop速度のバランスによって膜変形や分裂の様子が異なり、外膜と内膜の濃度差の非対称性が大きい場合に分裂が促進されることを分子シミュレーションによって明らかにした。このように、実験と理論(シミュレーション)を並行して進めることによりミニマルセルの分子スケールからメソスケールに及ぶ特徴を明らかにすることができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度の予定として、1) AOT/PANI-ES系ミニマルセルを発展させて、持続的に再生産する系の開発と、2)ミニマルセルが安定的に存在・増殖できるための非平衡熱力学的条件の探索を目的とした。 上に示したように、1)については膜透過性が非対称な浸透圧調整分子を導入することにより、持続的なベシクルの再生産が可能なことを示し、2)については分子シミュレーションにより、持続的な分裂を行うためには膜分子の取り込み速度(膜分子の内膜と外膜との非対称分布)とflip-flop速度のバランスが大切であることを示した。 これに加えて、エネルギー代謝から膜成長に至る全過程の速度論的方程式を導出し、既知の反応速度定数や実験から求めた膜分子の取り込み速度を用いて情報高分子の合成速度と膜成長速度をfitting parameter なしで記述することに成功した。これは代謝しながら自己生産するベシクルが従うキネティクスを定量的に評価することに成功したことであり、ミニマルセル研究の大きなマイルストーンとなる成果である。また、膜表面に存在するオリゴマーの分子配列によりベシクルの成長速度が変化することを脂肪酸ベシクルとペプチドを用いて明らかにし、2022年度に実施する進化するミニマルセルの探索に結びつく非常に大きな成果が得られた。これらの結果は当初予定していたもの以上の結果であり、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、外部から栄養分子(glucose)を取り込んで、エネルギー分子(H2O2)を合成し、そのH2O2を用いて鋳型重合により情報高分子(PANI-ES)を合成、PANI-ESが水溶液中の膜分子(AOT)を認識して、AOTベシクルに取り込むことにより成長・分裂するミニマルセルの構築に成功した。当初計画していたエネルギー代謝の副産物から膜分子を合成する反応経路はまだ実現の見通しは立たないが、情報分子の合成を介したベシクルの持続的な自己生産が実現できた価値は非常に大きい。 一方で、2021年度の研究でペプチドのアミノ酸配列により脂肪酸ベシクルの成長速度が大きく変化する現象を見出した。これは配列情報 genotype がベシクルの成長速度 phenotype に影響を与えることを直接示した画期的な結果である。このコンセプトをAOT/PANI-ES ミニマルセルに応用し、進化するミニマルセルの創成に向けて研究を進める。具体的には現在 膜分子AOT とそれに結合する情報高分子としてのPANI-ES の一つのペアでのみベシクルの自己生産が実現されていないので、競合による進化は起こりようがない。そこでもう一種類の膜分子と情報高分子のペアを探索し、その複合化により情報高分子を共重合体化する。その共重合体の組成や配列とベシクルの成長速度の関係から、進化するミニマルセルの実現性を検討する。 また、外部から脂質分子を供給し、情報分子を介してベシクルが成長・分裂する過程を、分子動力学シミュレーションを行うことで明らかにし、情報分子の配列が記憶する情報エントロピーに対するエントロピー生成最小の原理として定式化する。さらに、この原理を分子シミュレーションのデータにあてはめることで、シミュレーション結果を分類する方法を立案する。
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Research Products
(17 results)