2023 Fiscal Year Annual Research Report
顕生代における宇宙塵大量流入イベントと地球環境への影響
Project/Area Number |
20H00203
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
尾上 哲治 九州大学, 国際宇宙惑星環境研究センター, 教授 (60404472)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 峰南 九州大学, 理学研究院, 助教 (20773394)
曽田 勝仁 九州大学, 理学研究院, 学術研究員 (40850459)
山下 勝行 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (50322201)
高畑 直人 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (90345059)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地質学 / 地球化学 / 層位・古生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の研究では、主に丹波帯篠山地域および美濃帯舟伏山地域のペルム系グアダルピアン層状チャートと、秩父帯津久見地域および美濃帯犬山地域の中部三畳系層状チャートを対象に研究を行った。これらの検討地域に関しては、微化石による年代決定が不十分であったため、新たに開発した水酸化ナトリウムによる微化石抽出法を用いて、放散虫化石およびコノドント化石を抽出し、属種の同定および堆積年代を明らかにした。He同位体分析は、バルク試料の加熱法で行い、測定は東京大学大気海洋研究所のHelix SFTを用いて行った。上記の日本のジュラ紀付加体中に含まれる層状チャートを対象とした研究の結果、古生代ペルム紀から中世代三畳紀までの約5千万年に及ぶ長期の地球外3Heフラックスの時間変動を復元することができた。測定の結果、バルク分析で得られた3He濃度は、ペルム紀キャピタニアンからチャンシンジアンにかけて増加する傾向がみられた。また、ウーチャーピンジアンの最前期とチャンシンジアン最後期において、3He濃度の短期間の上昇がみられた。ペルム紀/三畳紀境界より上位層では、3He濃度は急激に低下し、全体としては中期三畳紀アニシアンの末期に向かって緩やかに低下する傾向がみられた。さらに上位層では、中期三畳紀のアニシアン後期とラディニアン後期において、地球外3Heの流入量が増加したことが明らかになった。検討したセクションの堆積速度に基づいて地球外3Heフラックスを計算すると、ペルム紀ウーチャーピンジアン最前期、チャンシンジアン最後期、中期三畳紀アニシアン後期、ラディニアン後期において、3Heフラックスが数倍増加したことが明らかになった。この結果は、小惑星帯における大規模な衝突や長周期彗星の増加などによって、これらの時期に惑星間空間に分布する塵が増加した可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究試料に関しては、日本のジュラ紀付加体中に含まれる中部ペルム系から上部三畳系試料について、予定していた研究試料を確保することができた。さらに検討セクションから3Heフラックスを計算するために必要となる詳細な地質年代の決定に関しても、新たに開発した水酸化ナトリウム法による微化石処理により、飛躍的に年代に関するデータ数を増やすことができた。He同位体分析に関しては、バルク試料の加熱法による測定を、東京大学大気海洋研究所で予定通りに進めることができた。進捗状況としては、本年度の計画で予定していたペルム紀中期からペルム紀末までの試料および中期三畳紀試料の分析が完了したため、研究は順調に進んでいるといえる。 今年度は、これまで進めてきた日本のジュラ紀付加体中に含まれる層状チャートを対象とした研究から、古生代ペルム紀から中世代三畳紀までの約5千万年に及ぶ長期の地球外3Heフラックスの時間変動を復元し、学会等で発表することができた。研究成果として、ペルム紀中期および三畳紀中期に、地球外3Heフラックスの高い時期があったことが明らかになった。また主要・微量元素濃度分析に基づく古環境復元からは、これら地球外3Heフラックスが高い時期には、陸上の乾燥化・寒冷化が進んだことが明らかになりつつある。このように計画自体は予定通り進んでいることから、全体の計画の進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度までの研究により、古生代ペルム紀から中世代三畳紀までの約5千万年に及ぶ長期の地球外3Heフラックスの時間変動を復元することができた。特に、ペルム紀中期および、三畳紀中期の層状チャートから、非常に宇宙塵フラックスの高い時期があったことが明らかになったため、今後は丹波帯のペルム紀中期の試料および、美濃帯の中期三畳紀チャート試料を追加採取し、He同位体分析を進める予定である。これらの特に高い地球外3He濃度を持つと考えられる区間の試料につては、3He濃度および3He /4He比を分析し、過去の宇宙塵フラックスを見積もる。試料からのHe抽出は、バルク試料の加熱法で行い、測定は希ガス分析装置を用いるが、特に高い3He濃度を持つ試料に関しては段階加熱法により、試料に含まれる3Heと4Heの起源を推定する。また今年度は、特に高い3Heフラックスが確認されたペルム紀中期および三畳紀中期の試料について、表面電離型質量分析計(TIMS)およびマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析計を使用してCr同位体分析を進める。さらに採取したチャート試料については、イベントの正確な年代を明らかにするため、放散虫化石およびコノドント化石を抽出し、属種の同定および堆積年代の決定を進める。これらの古生物学的な検討に加えて、地球外3Heフラックスの特に高い時代については、有機炭素同位体比やバリウム濃度に着目した多変量解析の結果から、当時の海洋表層における基礎生産量の変動を評価し、宇宙塵フラックス増加との関連性を検討する。
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