2020 Fiscal Year Annual Research Report
中枢神経病原性ウイルスの新たな神経細胞伝播機構の解明
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20H00507
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
柳 雄介 九州大学, 医学研究院, 教授 (40182365)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 麻疹ウイルス / 亜急性硬化性全脳炎 / 神経 / 膜融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
麻疹ウイルスは、脳に持続感染して致死性の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を起こすことがある。しかし、神経細胞には麻疹ウイルスの受容体は発現しておらず、どのようにして神経細胞にウイルスが感染・伝播して脳炎を起こすか分かっていない。我々は、これまでに変異により膜融合能が亢進したF(融合)蛋白質が麻疹ウイルスの神経病原性に重要であることを明らかにしている。本年度の研究により、(1)膜融合能が亢進したF蛋白質を活性化できる新規分子Xは、一般の受容体と異なり、受容体結合蛋白質であるH蛋白質やF蛋白質と同一膜上に存在する時にのみ、F蛋白質を活性化する、(2)共免疫沈降法で、分子XはH蛋白質と同一細胞上に発現する時にのみ、H蛋白質と相互作用をする、(3)分子Xは神経系で高発現している、(4)分子Xをノックダウンすると、膜融合能が亢進した麻疹ウイルスによるヒト由来細胞株の細胞融合(巨細胞形成)が顕著に低下する、(5)分子Xのマウスorthologueもヒト分子と同様に変異F蛋白質を活性化することができる、(6)マウス神経細胞初代培養に膜融合能が亢進した麻疹ウイルスを感染させると、ウイルスは広汎に伝播する、(7)マウス神経細胞初代培養で分子Xをノックダウンすると、膜融合能が亢進した麻疹ウイルスの神経細胞間伝播は顕著に阻害されることが明らかになった。これらの結果から、分子XはH蛋白質とcisに弱い相互作用をすることにより、膜融合能が亢進したF蛋白質を活性化し、膜融合を引き起こしていると考えられる。すなわち、分子Xは「cis作用性受容体」として機能している。このようなメカニズムによるウイルス伝播は、神経におけるシナプスや上皮細胞のように元々細胞同士が密着している場所で起こる可能がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた実験計画をほぼ実施することができ、神経における麻疹ウイルス伝播機構の解明や、阻害剤の開発につながる重要な知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
神経における麻疹ウイルス伝播機構の詳細を解明するために(1)分子Xとそれと同じ分子ファミリーに属する分子の様々なキメラ分子を作成することにより、分子Xのどの領域がH蛋白質との相互作用や、膜融合の活性化に関わっているかを明らかにする、(2)H蛋白質の様々な変異体を用いることにより、分子Xとの相互作用および融合能亢進F蛋白質の活性化に重要な領域を明らかにする、(3)分子XとH蛋白質の相互作用に別の第3の分子が関わっている可能性があるので、H蛋白質、分子Xの共存下で相互作用する別の分子を共免疫沈降や質量解析の手法で探索する、(4)これらの情報に基づいて、H蛋白質と分子Xの結合様式をX線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡を用いてさらに詳細に明らかにする。これらの、研究を通して、神経伝播機構を明らかにするとともに、培養細胞や動物モデルを用いて、融合能亢進F蛋白質による膜融合や神経間伝播を阻害する方法を探索する。
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