2020 Fiscal Year Annual Research Report
Husserl's Kaizo Articles and their Contexts
Project/Area Number |
20H01177
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
植村 玄輝 岡山大学, 社会文化科学学域, 准教授 (40727864)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉川 孝 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (20453219)
八重樫 徹 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20748884)
竹島 あゆみ 岡山大学, 社会文化科学学域, 教授 (70273951)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フッサール / 現象学 / 社会哲学 / 共同体 / 社会的作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はふたつの研究を中心に進められた。 第一に、フッサールの「『改造』論文」とその関連草稿(ともに『フッサール全集(Husserliana)』第27巻に所収)を全訳し、注解を付ける研究会を定例でおこなった。本年度は、第一論文「革新。その問題と方法」について、下訳を一文ずつ検討しながら注釈のためのメモを科研費メンバーのうち三名の共同で作成した。その際の役割分担は以下の通りである。植村は、下訳を作成し研究会の進行管理を行ったほか、主に現象学方法論の観点からの注解作成にあたった。吉川と八重樫は、下訳のチェックを行いつつ、フッサールおよび初期現象学の倫理学という観点からの注解作成にあたった。また竹島は、現象学の非専門家の立場からの助言にあたった。こうした翻訳と注解の作業は本研究を着実に進めるための地固めとしての役割を果たすと同時に、翻訳の出版を通じて本研究の最大の成果のひとつとなる予定である。 上と平行して、各自が研究計画において割り当てられた課題に取り組んだ。植村は、フッサールの本質論が初期の倫理学において果たしている役割について研究したほか、初期現象学における社会哲学に関するこれまでの研究成果を、シュタインとヴァルターだけでなく、尾高朝雄にも着目しながら整理した。吉川は、当初の予定では八重樫が取り組む予定だった個人倫理学の観点からのフッサール研究として、「生き方としての現象学」という発想の再検討を行った。八重樫は、フッサールの個人倫理学に関する研究として後期の倫理学草稿の内容を整理したほか、当初の予定では吉川が取り組む予定だった社会倫理学の観点からのフッサール研究にも取り組んだ。竹島は、尾高朝雄のヘーゲル論の準備のため、尾高の主要著作の調査にあたった。これらの研究の成果は次年度以降に本格的に発信される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主にコロナ禍のために、全体的に計画が遅れてしまったと判断せざるをえない。「『改造』論文」の翻訳注解プロジェクトについては、対面で行うはずだった定例の研究会を急遽すべてオンラインに変更したため、勝手の違いになじむまでに時間を要してしまった。また、2022年度ないし2023年度に開催予定の国際学会についても、今後の状況があまりにも不透明だったために、準備らしい準備を開始できていない状況にある。それに加えて、オンライン授業の準備のため各メンバー本研究計画外の負担が急増したため、各自が進めるプロジェクトについても当初の予定を下回る進捗しか生み出せていない。この点に関しては、当初予定していたポスドクの(遠隔勤務での)雇用がかなわなかったことも要因の一部となっている。 研究計画の遅れの原因としては、フッサールの「『改造』論文」が研究計画を立てた段階での想定以上に多くの注解を要する文献であることが定例研究会を通じてあきらかになったことも挙げられる。具体的には、同論文はフッサールのそれまでの公刊著作での議論を暗黙のうちに想定し、それまでの講義や研究草稿における議論の成果を圧縮したかたちで提出するものであるため、それらをつまびらかにするためには想定以上の作業を必要とすることが発覚した。ただしこうした事情は、研究が着実に進んでいることの証拠とも見なしうるだろう。 また、対面の学会や研究会の機会が失われたこともあって、口頭発表による中間報告的な研究発信も想定より少なくなってしまった。しかしこうした不足は最終的な成果発信の質と量にによって補うことが可能であると考えられる。だが、今年度中に出版した論文やbook chapterの分量は、人文学研究の一年度目の成果としては十分であるはずである。 以上より、全体として「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の教訓を踏まえ、オンラインでの活動を中心にした研究体制をより効果的なものとして立て直すことを計画している。具体的には、隔月開催で長時間にわたって行う予定だった定例研究会を、隔週で短時間に行うものに変更する。これによって、オンライン授業の実施によって縮減した各自の研究時間をより効率的に本研究に割り当てることが可能になるはずである。また、成果の中間報告的な発信によるフィードバックの獲得についても、オンラインでの研究会を主催することで、これまでよりも幅広い層にリーチするかたちで可能になることが期待される。 研究計画についても、「現在までの進捗状況」で述べた事情を踏まえて軌道修正する。具体的には、「『改造』論文」の翻訳注解プロジェクトにより多くのエフォートを割り当てる。こうした変更はフッサールの社会哲学を同時代の文脈やドイツ哲学における社会哲学のより広い文脈に置くサブプロジェクトの進捗を一時的に遅らせることになるかもしれない。だが、それらのサブプロジェクトが「『改造』論文」に関する研究を下敷きにして展開されるべきである以上、研究計画のこうした修正を避けることは得策ではないし、最終的にはサブプロジェクトをより効果的に進めるための手がかりが得られることも期待できる。 国際学会については、新型コロナウイルス感染症の流行の推移を見据えながら計画を練り直すことを検討している。これまでの計画では、この学会をKU Leuvenのフッサール文庫との共同で日本とベルギーの二ヶ所で行うことを見込んでいたが、こうした大掛かりな計画は情勢の変化に対する柔軟な対応を難しくするように思われる。そのため、フッサール文庫との協力体制を維持しつつも、国際学会の開催については日本側が主導するという態勢への変更を行うことを先方と相談するつもりである。
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Research Products
(13 results)