2022 Fiscal Year Annual Research Report
Trade and cultural transformation of Sakhalin Ainu, An interdisciplinary study
Project/Area Number |
20H01306
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Research Institution | Hakodate University |
Principal Investigator |
中村 和之 函館大学, 商学部, 教授 (80342434)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関根 達人 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (00241505)
麓 慎一 佛教大学, 歴史学部, 教授 (30261259)
小田 寛貴 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
中井 泉 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 教授 (90155648)
三宅 俊彦 淑徳大学, 人文学部, 教授 (90424324)
田村 将人 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 客員研究員 (60414140)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アイヌ / サハリン島 / 交易 / ガラス / 年代測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現在では失われてしまったサハリンアイヌの伝統的な文化を復元することを目的とする。(1)北海道から移住したサハリンアイヌが、いつ独自の文化を築き、その後どのような変貌をとげたか。(2)サハリンアイヌの文化には、南部と北部とで地域的な違いがあるか。(3)サハリンアイヌの文化には、交易の影響がどのように及んでいるか。(4)サハリンアイヌの文化に、大陸と日本からの影響はどのように及んでいるかを検討する。サハリンアイヌは、文化人類学・言語学からは大陸の文化とのつながりが強いことが指摘されている。本研究は歴史文献と考古学資料を対比し、時間軸を重視して文化変容の実態を解明する。 本研究は、(a)歴史学、(b)文化人類学、(c)映像学、(d)考古学、(e)成分分析、(f)年代測定、(g)出土銭貨の七つの研究分野の成果を組み合わせながら検討を進めることとしていたが、令和4年度は前年度に引き続き、ロシアの政治情勢によって現地調査ができなかった。そのため、日本国内の資料の調査に基づいて研究成果を得ることに方針を変更し、対象とする資料を考古学資料から伝世資料に広げた。その結果、アイヌの女性が身につけたタマサイ(首飾り)の編年についての案を提示することができた。これまで首飾りは紐を取り替える度に、ガラス玉や銭貨が取り替えられていると考えられてきたが、古い形が残されているのではないかという見通しを示すことができた。さらに、北方交易でアイヌにもたらされた蝦夷錦の残存資料で、これまで調査が行われてこなかった北海道南西部と青森県の資料を調査した。 またフランス国立図書館が所蔵する『職貢図』の庫野(アイヌ)の調査を実施した。この書は、台湾の故宮博物院が所蔵する謝遂『職貢図』の別写本であり、漢語と満洲語の対訳で美しい彩色がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究にとって大きな比重を占める、ロシア連邦サハリン州および沿海地方での現地調査が全くできない状態が続いた。さらに、ロシアのウクライナ侵攻により、日本とロシアの通交が途絶し、現地調査はもちろん、ロシア側の研究協力者との連絡もままならない状態となった。このままでは研究成果を得ること自体が難しいと考え、日本国内の博物館・資料館に収蔵されている、戦前の日本領時代(ロシアでは樺太時代と呼んでいる)に収集された伝世資料に調査対象を変更することとした。 まず、市立函館博物館には戦前にサハリン島で収集されたコレクションがあるので、タマサイに含まれる銭貨に注目して調査を始めたところ、先にものべたように編年の案を提示することができた。このほか、サハリンで収集されたタマサイの資料に清朝銭が使われているなど、北海道アイヌの資料とは地域的な差が認められた。このことは今後の成果に結びつくのではないかと思われる。 つぎに、北方交易でアイヌにもたらされた蝦夷錦は北海道の南西部や青森県の寺・旧家に残されたものがある。それらの資料から放射性炭素年代測定のサンプルを採取できないかについて調査を行った。 またフランス国立図書館が所蔵する『職貢図』の庫野(アイヌ)の調査を実施した。この書は、台湾の故宮博物院が所蔵する謝遂『職貢図』の別写本であり、漢語と満洲語の対訳で解説されている。同書の満洲文についてはこれまで解読がなく、故宮博物院本との比較が今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
先にも述べたように、本研究は現在では失われてしまったサハリンアイヌの伝統的な文化を復元することを目的とする。その目的実現のため、本研究では歴史文献と考古学資料を対比し、時間軸を重視して文化変容の実態を解明することとしている。そのためには、現地での資料調査と成分分析、および年代測定のための試料採取が必須との認識で計画を立ててきたが、研究がはじまって3年間もロシア連邦での海外調査ができないという状況が続くこととなった。 そこで日本国内の資料館・博物館にある伝世資料を調査の対象に加えることにした。今後は北海道以外の各博物館に収蔵される、タマサイ(首飾り)に含まれる銭貨の調査を行う予定であり、蝦夷錦の放射性炭素年代測定についても順次調査する予定である。 また、サハリンアイヌの資料はヨーロッパ各国にもあり、とくにドイツ連邦共和国に良好なコレクションがあることが知られているので、ドイツのアイヌコレクションについて情報の収集を進めている、これから調査の受け入れについての交渉を行う予定である。 令和4年度に調査した、フランス国立図書館蔵の『職貢図』の庫野の満洲語の解読を行う予定である。
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