2020 Fiscal Year Annual Research Report
Study on structure and material of wall paintings in the Hakuho period
Project/Area Number |
20H01380
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
犬塚 将英 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (00392548)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
早川 泰弘 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 東京文化財研究所, 副所長 (20290869)
降幡 順子 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部保存科学室, 室長 (60372182)
高妻 洋成 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 奈良文化財研究所, 副所長 (80234699)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 法隆寺金堂壁画 / 反射分光分析 / ハイパースペクトルカメラ / 治具 / 現地調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
法隆寺金堂壁画の今後の活用について、将来的に一般に公開することも視野に入れた場合、新たな保存展示施設の建設や既存の壁画収蔵庫の改修工事の必要性、金堂壁画の移設の可否についての議論も活発になってくることが予想される。このような議論を進めるにあたり、金堂壁画の構造・材質、そして現時点での劣化状態を正確に把握することが重要になってくる。本研究の目的のひとつは、保存・活用の観点から、法隆寺金堂壁画を含む白鳳時代の壁画に用いられている彩色材料の同定を行うことである。この目的のために本研究では、蛍光X線分析やX線回折分析では分析をすることが容易ではない有機材料の使用の可能性に関する調査も念頭に置いて、特に可視分光分析の調査手法の開発に力を入れてきた。 反射分光分析では、分析対象から得られた反射スペクトルを既知の材料から得られた反射スペクトルと比較することにより、材料の同定を行う。近年の分光技術の著しい進歩により、ある領域の面的な分光情報を取得することができるハイパースペクトルカメラが開発され、文化財の調査においても利用が盛んになりつつある。本研究では、東京文化財研究所が導入したハイパースペクトルカメラを用いて、撮影条件や安全な設置方法に関する基礎的研究、及び絵画作品の現地調査等を実施してきた。 法隆寺金堂壁画のうち大壁や飛天が描かれている小壁の壁画の分析の実現に向けて、まずは山中羅漢図が描かれている壁画片の分析調査を予定している。このような壁画片を安全に分析するために、専用治具にハイパースペクトルカメラを設置した状態で、奈良文化財研究所が所有する内モンゴルで描かれた壁画片の分析調査を実施した。以上の成果については、2022年3月12日に開催された法隆寺子運動壁画保存活用委員会・第7回ワーキンググループ全体会合にて報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、本年度までに法隆寺金堂壁画のうち飛天が描かれている内陣小壁の壁画の分析のための現地調査等を予定していた。しかし、コロナ禍の影響及び数度にわたって発令された新型コロナウィルス感染症まん延防止等重点措置により、現地調査を実施することが不可能になってしまった。 このような状況に鑑みて、本研究では文化財科学の分野においても調査事例が少ないハイパースペクトルカメラを用いた新しい分析手法に関する基礎的研究に重点を置いて、研究を進めてきた。ハイパースペクトルカメラを用いると、2次元の位置情報と反射分光スペクトルのデータを一緒に集積することができるので、類似した彩色材料が用いられている箇所のマッピングや補修箇所の視覚化を実現することができる。しかし、装置の設置方法や安全性の評価に加えて、光源の選定、校正のしかた、ハイパースペクトルカメラを用いた撮影の時の分析条件の検討が課題であった。本研究では、このような分析条件・分析方法に関する基礎研究を行い、2022年3月に東京文化財研究所から刊行された『保存科学』第61号にて成果報告を行った。また、修理を予定している絵画作品等の現地調査を通じて、これらの分析条件・分析方法についての評価も行った。 さらに、法隆寺金堂壁画のうち大壁や飛天が描かれている小壁の壁画の分析の実現に向けて、次に山中羅漢図が描かれている壁画片の分析調査を予定している。このような壁画片を安全に分析するために、専用治具にハイパースペクトルカメラを設置した状態で、奈良文化財研究所が所有する内モンゴルで描かれた壁画片の分析調査を実施した。この成果については、2022年3月12日に開催された法隆寺子運動壁画保存活用委員会・第7回ワーキンググループ全体会合にて報告を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに本研究では、保存・活用の観点から法隆寺金堂壁画を含む白鳳時代の壁画に用いられている彩色材料の同定を行うために、有機材料の使用の可能性に関する調査も念頭に置いて、特にハイパースペクトルカメラを用いた可視分光分析の調査手法の開発に力を入れてきた。そして、専用治具にハイパースペクトルカメラを設置した状態で壁画片の分析調査を実施し、安全性の評価も行った。 以上の研究成果を活かして、2022年度前半には、山中羅漢図が描かれている壁画片の調査を予定している。この調査で得られた分析データの解析のみならず、分析方法・分析条件の再評価を行った上で、2022年度のうちに飛天が描かれている内陣小壁の分析調査を実施する予定である。以上の分析調査においては、主にハイパースペクトルカメラを用いた2次元的な反射分光分析による調査を予定しているが、法隆寺金堂壁画の構造・材質、そして現時点での劣化状態を正確に把握するために必要な他の分析手法に関する準備も平行して実施する予定である。 そして、以上の調査結果を総合的に評価し、今後の大壁の調査に向けた準備や検討を実施する予定である。
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