2020 Fiscal Year Annual Research Report
Construction of scientific inference program based on philosophy of science and of statistics
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20H01736
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松王 政浩 北海道大学, 理学研究院, 教授 (60333499)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島谷 健一郎 統計数理研究所, データ科学研究系, 准教授 (70332129)
森元 良太 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (70648500)
川本 思心 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (90593046)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 科学哲学 / 統計哲学 / 科学哲学教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度、計3回の研究会を開催したが、その内容は次のとおり。第1回(9月4日、オンライン開催)では、本研究の研究協力者でもあるE. ソーバーのOckham’s Razorを基礎資料とした討論を行った(研究分担者の森元が現在翻訳を手がけている)。この本は松王がかつて翻訳したEvidence and Evolutionの続編に当たり、科学哲学と統計学の一層の融合が試みられている。会では科学的確証をめぐる尤度主義のベイズ主義への優位性を中心に議論を行った。第2回(10月23日)は鈴木大地氏(生命創成探求センター)をゲストに迎え、生物学における氏のホモロジー論と哲学的存在論、認識論との関係について議論し、生物学的課題と哲学的課題との関連について理解を深めた。第3回(3月24日)は各自が投稿予定の統計哲学論文に関して、相互に発表し批判検討を行った。この3回の研究会を通じて、本年の主たる課題である、科学哲学の伝統的テーマと統計学との関係解明について、その手がかりとなることがらを複数得ることができた。 個別の業績は次のとおり。まず代表者の松王は12月に著書『科学哲学からのメッセージ』を出版した。本書は科学と科学哲学のそれぞれの課題を架橋することを目的とするもので、統計学をその重要な手がかりとしている。因果、実在、価値の3つの科学哲学的テーマと統計学とのつながりについて、本研究で得た研究成果の一部が反映されている。島谷は統計教育に科学哲学の成果を用いるという観点で、統計教育の方法論ワークショップで発表を行い、観点が斬新であるとして統計学教育関係者から注目を集めた。森元は、数式ではなく科学哲学における概念や考え方をもとに統計学を再解釈する、という趣旨の公開講座を実施し参加者から好評を得た。両者の業績は、どちらも教育の観点も含むものである。他に、研究協力者の髙橋が帰納論理に関する論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、科学哲学の主要テーマと統計学との関連を探ることを主な課題としていたが、一部、教育への応用という今後の課題に踏み込む形で研究が進んでおり、現在までの進捗としては「予定より進んでいる」状況である。科学哲学のテーマ統計学との接点については、実在論論争と「ベイズ主義対頻度主義」のパラレルな構図、価値判断論争についても科学的判断の背景にある統計学選択による違いなどについて知見を蓄積した。その成果の一部はすでに松王の著書として公表済みである。また因果については、研究協力者の高橋がそれまでの統計的因果推論に対してダイナミック・ベイズネットの考え方を提唱し、概念的レベルの因果論争のうち、いくつか鍵を握る論争について統計学の点から整理できる見込みを得た。この高橋の成果を含め、本研究の代表者、分担者、協力者がそれぞれ、統計学における科学哲学的な問題を探る形で科学哲学と統計学の接点に関する論文をすでに執筆、投稿済みである。第3回の研究会では、相互の批評を通じて論文の中身をさらにブラッシュアップすることができた。また松王の論文(尤度原理の哲学的問題に関するもの)については、研究協力者のE. ソーバーが現在コメントを書いてくれており(論文にはソーバーのこれまでの論に対する批判も含まれている)、このコメントを通じて統計学と科学哲学の関係についてさらに核心的部分に近づけると考えられる。なお、このソーバーとのやりとりは、3年目に予定している、科学哲学と統計学の関係をめぐる国際シンポジウムの準備ともなる。研究成果の教育への応用については、島谷がその可能性について自身の現在の考え方をまとめ、教育者を対象として講演を実施している。また森元は統計数理研究所の公開講座で、科学哲学と統計学の接点に関する授業を試みている。次年度は、研究の比重を徐々に教育に移していくが、その準備が今年度中にある程度整った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画の大きな流れとしては、まず次年度(R3年度)に科学哲学的テーマの統計学的解題をさらに進め、同時に教育への応用可能性について検討する(北大CoSTEPでの演習への取り込みについても、次年度中に計画する)。次いで、R4年度にはこの二つの課題をめぐる国際シンポジウムを開催する。海外からの演者の一人は科学哲学者E. ソーバーを予定しており、もう一人は統計学者S. R. レレ(アルバータ大学)を予定している(具体的な計画、交渉をR3年度中に進める)。最終年度(R5年度)には、ブエノスアイレスで開催予定のCLMPST(科学哲学世界大会)で、本研究成果をシンポジウムの形で開催し、世界の科学哲学者(とりわけ統計学に関心のある哲学者)と討論することを予定している。また、科学に関心のある様々なバックグラウンドの受講生が集うCoSTEPで実験的な授業を実施することを予定している(松王が代表者であるH28-H31の科研費研究においても、CoSTEPで実験的な授業を行い、成果を得た)。 こうした研究計画を推進する上で、最も懸念されるのは、今後の新型コロナウィルス感染状況である。いずれの計画も対面による方法を前提としているが、感染が終息に向かわない場合、オンラインによる実施に切り替えることも念頭に置いて準備を進めたい(CLMPSTへの参加形態については、大会運営委員会の判断に従うことになる)。実験的授業については、すでにCoSTEPが今年度オンラインでの効果的な授業について、実践を通じてかなりノウハウを蓄積している。また、大きなシンポジウムについては、松王がセンター長を務める北大オープンエデュケーションセンターで、同じくノウハウの蓄積がある。こうした組織の協力を得ながら、対面の代替案についても準備し、計画通り研究を進めていく。
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Research Products
(6 results)