2021 Fiscal Year Annual Research Report
超顕微解析に基づく積層型ナノコンポジット膜磁石の配向界面制御
Project/Area Number |
20H02425
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
板倉 賢 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (20203078)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 正基 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20274623)
小池 邦博 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (40241723)
赤嶺 大志 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (40804737)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電子顕微鏡 / ナノコンポジット磁石 / 界面制御 / 配向成長 / 薄膜磁石 / プリセッション電子回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境計測用ナノドローン等に搭載する小型モータ用磁石の需要が急増している。本申請課題では、小型磁石に必要な高い保磁力と最大エネギー積を両立させ、かつ省レアアース化を同時に達成できる積層型ナノコンポジット(NC)膜磁石に着目し、2種類の「高度な成膜技術」とナノスケールで構造・組成・磁区構造を解析できる「超顕微解析技術」を駆使して、物理的根拠のある交換結合に有利な配向界面制御技術の確立を目指す。 今年度はまず、超高真空蒸着(UHVD)法で作製した積層NC膜へのシード層導入による配向成長とプリセッション電子回折(PED)による結晶方位解析を試みた。数μmの広範な領域における数十nmほどの微粒子から方位マップ像を取得することに成功し、NC積層膜を構成する殆どのNd2Fe14B多結晶粒が膜面垂直にほぼc軸(容易磁化軸)配向できていることが明らかとなった。また、NC積層膜では堆積方向にc軸が±10度ほど異なる2種類の結晶方位をもったNd2Fe14B結晶粒から構成されているのに対し、同様のシード層導入した単層膜試料では1つの結晶方位に収束してc軸配向度が大きく向上することがわかった。ただし、NC積層膜の2層目以降へのシード層導入による配向成長にはまだ問題があるため、今後NC積層構造や熱処理条件の改善が必要である。 一方、高速成膜膜パルスレーザー蒸着(PLD)厚膜磁石については成膜条件の再検討を行い、新たな直接基板加熱機構を導入して種々の成膜条件でNd-Fe-B単相厚膜試料を作製した。超顕微解析の結果、配向成長した直径2 μmほどの柱状Nd2Fe14B結晶から成る膜厚20 μmほどの厚膜が得られており、高温加熱したTa基板に高速成膜するだけで配向成長した異方性Nd2Fe14B厚膜磁石を作製できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請研究では、原子レベルで構造制御できるUHVD法で作製したモデル薄膜磁石に超顕微解析を行なって物理的根拠のある界面構造や配向制御に関する知見を得るとともに、高速成膜PLD法による小型モーターへ応用可能な厚膜磁石の創製に関する知見を得ることを目指している。 UHVD薄膜を用いた研究については、新型コロナウイルスによる制限を受けながらも山形大での薄膜磁石試料作製と九州大での超顕微解析が実施でき、本申請研究の鍵を握るシード層導入による配向成長への効果を明確にすることができた。特に、超顕微解析において高い分解能でPED方位マップ像を取得できたことは大きな成果であり、試料の広範囲に生成した微細粒組織において基板・下地層・生成副相を含めて各々の結晶方位関係を可視化できるようになった。その結果、Nd-Fe-B単層膜においてはシード層導入により高い配向度をもったNd2Fe14B多結晶粒薄膜が得られ、配向界面制御に大きく近づいた。 高速成膜PLD厚膜を用いた研究については、新型コロナウイルスの影響により進捗が遅れていたが、インターネットを利用した共同研究者間の遠隔会議により配向成長できる成膜条件について様々な検討を行った。その検討を基に長崎大で種々PLD厚膜を試作し、九州大での超顕微解析に供した。その結果、加熱基板に高速成膜するだけで高い配向度をもった異方性Nd2Fe14B多結晶厚膜磁石が作製できることを見出した。今後、直接基板加熱による異方化メカニズムの解明を目指すと共に、高性能PLD厚膜磁石における配向界面制御についても研究を拡げていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度も、A班(超顕微解析:九州大)、B班(UHVDモデル薄膜磁石作製:山形大)、C班(高速成膜PLD厚膜磁石作製:長崎大)による共同研究チームを組織し、この体制により以下の課題に取り組む。 <課題1:積層膜の交換結合に有効なMo中間層の効果><課題2:NFB-seedsとポストアニール処理による配向結晶化> B班で積層モデル薄膜を試作し、磁気特性評価により選別した試料を、A班の超顕微解析に供する。課題1では、Mo中間層の生成状態に着目し、原子レベルでの構造・組成情報を取得して、交換結合状態に及ぼすMo中間層の影響を解明する。課題2では、構成相の方位関係と界面構造に着目して結晶方位情報も取得しながら、配向成長に及ぼすNFB-seeds結晶の影響を解明する。今年度は、これまでの課題1と2の成果を基に積層型ナノコンポジット磁石を試作し、配向界面制御について結晶学的観点から検討を進めていく。 <課題3:基板加熱による厚膜配向成長> C班で高速成膜PLD法によりNd-Fe-B厚膜磁石を試作し、磁気特性評価により選別した試料を、A班の超顕微解析に供する。超顕微解析により結晶方位情報などを取得して学術的根拠を押さえながら、高速PLD法に適した配向結晶化技術を開発していく。 <課題4:基板加熱によるSmFe12薄膜の配向成長> B班で成膜法や基板加熱温度を変えたモでル薄膜を種々試作し、磁気特性評価により選別した試料を、A班の超顕微解析に供する。これまでのNd-Fe-B系における配向制御に関する成果をSm-Fe系に応用し、原子レベルでの構造・組成情報および結晶方位情報を取得しながら、SmFe12薄膜の配向成長に及ぼす成膜条件についての結晶学的知見を得ていく。 以上を前年度までの結果と併せて、環境に優しい省RE積層型ナノコンポジット磁石における配向制御技術について検討し総括とする。
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