2021 Fiscal Year Annual Research Report
ウリ科の異属間単為結実に関わる分子メカニズムの解明
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20H02974
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
志村 華子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20507230)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 卓 北海道大学, 農学研究院, 教授 (30196836)
実山 豊 北海道大学, 農学研究院, 講師 (90322841)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 単為結実 / ウリ科植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
スイカの雌花にユウガオの花粉を受粉すると約50%の確率で単為結実が生じる。ユウガオの花粉はスイカの子房内で単為結実を引き起こす特異的な反応を誘導すると考え、今年度も受粉処理から経時的にスイカ子房を採取し、RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析によって単為結実に関わる遺伝子の探索を行った。ユウガオ花粉を受粉した際に、肥大または非肥大の違いが視覚的に判別可能になるのは受粉96時間以降だが、受粉72時間後のユウガオ受粉区(9個体)の遺伝子発現パターンをみると、4株はスイカ受粉区と同様のパターン、5株は単為結実を誘導しないニガウリ受粉区と同様のパターンを示したことから、前者は肥大し、後者は肥大しないと予想された。肥大すると思われるユウガオ花粉受粉72時間区でのみ発現量が高い遺伝子には、細胞壁修飾酵素を制御するタンパク質をコードする遺伝子DUF642やABAおよびストレス誘導遺伝子HVA22などがみられた。肥大すると予想されるユウガオ花粉受粉72時間区とスイカ受粉区で共通して発現上昇しているものにはGA合成遺伝子が検出された。一方、肥大しないと思われるユウガオ花粉受粉72時間区で発現量が高い遺伝子の多くはニガウリ受粉区でも発現量が高く、ジャスモン酸応答、ブラシノステロイド応答に関わる遺伝子が多く検出された。また、さらに早い時間(受粉後36時間、48時間)では、受粉区による遺伝子発現パターンの中に結実の有無と関連がありそうな傾向は明確には見出されなかった。実際にはまだ肥大は起こっていないが、単為結実となるかどうかを決定する遺伝子発現の違いは受粉72時間後ではもう起こっていると考えられた。受粉後36から48時間はまだ肥大方向へ進むかどうか過渡期の状態ではないかと思われ、72時間までの経時的変化をさらに詳細に調べる必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでも受粉後72時間の遺伝子変動に注目していたが、昨年度までは、受粉後72時間の個体の遺伝子発現変動パターンを単為結実と関連させられるようにクラスタリングすることができなかった。今年度は個体数を増やし、また、データ解析方法に改良を加えたことで、受粉後72時間で単為結実の有無と関連する遺伝子発現パターンが起こっていることを見出すことができた。この受粉72時間後のサンプルの解析により、異属であるユウガオ花粉の含有物はスイカ雌花に防御応答あるいはそれに似た応答を誘導すること、その防御応答様経路はブラシノステロイドやジャスモン酸が関わるものであること、またその防御応答様の経路から、ジベレリン合成へ分岐する情報伝達がユウガオ受粉区で起こっていることが予想された。ユウガオ受粉特異的に変動する遺伝子には機能未知とアノテーションされているものが多く、さらに特異的なシグナル分子や伝達経路を見出すことには至ってないが、より解像度を高めた解析が進んでおり、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
受粉後72時間では遺伝子発現パターンによって結実の有無がすでに決定されていると予想されたことから、これよりも前の発現変動を見る必要がある。受粉後60時間のサンプルを多く用意して、同様の解析を行うことを予定する。また、各受粉区の受粉後36時間、48時間の遺伝子発現パターンに結実の有無と関連するものは明らかに見出せなかったが、一部、スイカ受粉区と同様の発現パターンを示すユウガオ受粉区もあった。ユウガオ受粉区の個体間でみられるこのような差は、花粉管伸長の違いに起因する可能性を考え、子房内の花粉伸長や細胞の大きさや数など組織学的解析も進め、花粉伸長の動向と形態変化、遺伝子発現変動に関わりがあるのかを明らかにしたい。受粉後の早い段階では各受粉区で大きな差がでないのは、スイカ花粉を受粉した場合でも異属花粉の受粉と同様な防御応答様の情報伝達が起こっており、受精によってスイカ受粉区はこの防御応答を速やかに抑制できるのではないかと考えた。スイカ受粉区における遺伝子発現パターンも経時的に調べるために、より早い段階またはより細かい組織を用いた解析を行うことも検討する。
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