2020 Fiscal Year Annual Research Report
生活習慣病に伴う薬物動態変動を反映したバイオマーカーの定量的モデル解析
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20H03405
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
廣田 豪 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (80423573)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生活習慣病 / 糖尿病 / 薬物動態 / microRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
生活習慣病の治療において、薬物療法は重要な手段の一つであるが、病態時の遺伝子発現変化により薬物動態が変動することが近年報告されている。しかしながら、侵襲性の低い方法で薬物動態の主要臓器である腸、肝臓などにおける遺伝子機能を推測するのは困難である。本研究では、血漿からのexosome分取に基づくmicroRNA (miRNA) 定量法を応用して、miRNAを対象とした病態時の薬物動態関連遺伝子の発現変動機構の解明と、病態時薬物動態変動を反映したバイオマーカーを確立することを目指している。本年度は、in vitroにおいて至適な高糖濃度の曝露条件の設定を行った。条件設定は、これまでの報告にてヒト血中において糖尿病病態時に、有意にその発現が変動していることが報告されている複数のmiRNAの発現量の変動を指標に設定した。設定した条件において、高血糖によって発現が変動するmiRNAをmiRNAアレイによる網羅的発現解析により検索した。その結果、既存の報告のあるmiRNAに加えて、複数のmiRNAが高血糖により発現が変動するmiRNAとして抽出され、そのうちのいくつかは薬物動態関連遺伝子発現の制御に関わることが予想されるmiRNAであった。次年度以降は、抽出したmiRNAについてreal time PCRによる結果の再現性の確認を行った上で、当該miRNAが薬物代謝酵素やトランスポーターに及ぼす影響について、詳細に検討を加えることで、病態時の薬物動態の変動機構を解明できるものを考えられる。本年度の結果から、有望なmiRNAをいくつか検出できたことから、当初の予定通り糖尿病患者の末梢血中の当該miRNAを定量することで、薬物動態予測のバイオマーカーとしての有用性について、検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、高糖濃度の曝露条件の検討から行った。至適条件の設定は、既報において糖尿病患者の血中にて発現変動が報告されているmiRNAを複数定量することで行った。一部既報とは異なり高糖濃度において、発現量が変動しないmiRNAも存在したが、複数のmiRNAにおいて発現変動が確認できた条件を以降の高糖濃度の曝露実験の設定条件として用いることとした。設定した条件に基づいて、細胞を高糖濃度で曝露を行いsmall RNA画分をmiRNeasy Mini Kitを用いて抽出した。抽出したRNAについて、BioRad社のExperionにてクオリティチェックを行い、アレイを実施することが可能なRNA品質とDNAのコンタミネーションの無いことを確認した。miRNAマクロアレイ解析は、セルイノベーター社に依頼して行った。シグナルの数値化データを取り込み、全てのサンプルにおいてsignal detect flagの立たなかったmiRNAは定量不可として除外した後、quantile shiftノーマライゼーションを行った。その後、主成分解析を実施し、検体におけるmiRNA発現のプロファイルを確認した。解析の結果、いくつかは薬物動態関連遺伝子発現の制御に関わることが予想されるmiRNAであった。本研究において、解析対象となるmiRNAを網羅的に解析する方策を実施するが、薬物動態関連遺伝子への影響が予想されるmiRNAを特定できたことから、予定通りの進捗状況であると言える。次年度以降、候補miRNAの詳細な解析を進めることで、当初の研究目標は達成可能であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、前年度にmiRNAアレイにより検出したmiRNAについて薬物動態関連遺伝子に対する影響を解析する。まず、リアルタイムPCRによりmiRNAアレイにより得られた結果の検証を行い、再現性の確認を行う。miRNA mimicやinhibitorを使用することで、影響を及ぼす薬物動態関連遺伝子の特定を行う。その際には、当該遺伝子の3’非翻訳領域を挿入したレポーターベクターを用いたルシフェラーゼアッセイを行うことで、当該遺伝子制御における重要な領域の特定も併せて行う計画である。高血糖における薬物動態変動機構においてmiRNA発現変動が及ぼす影響について明らかにするため、高糖濃度曝露条件下において、薬物トランスポーターまたは薬物代謝酵素の発現細胞に対してmiRNA inhibitorをトランスフェクトし、薬物輸送活性・代謝活性の測定を行う。これらの検討により、miRNAを高血糖時の薬物動態変動のおけるバイオマーカーとする機能的な妥当性を明らかにすることができると考えられる。miRNAの機能解析と並行して、血漿中のmiRNAをバイオマーカーとする検討も進める。これまでに、血中のmiRNAを用いて健常人の薬物トランスポーター機能を予測することが可能であることを示してきた(Sci Rep. 2016; 6: 32299)。そこで、当該手法を応用して糖尿病患者の血中からmiRNAを定量する方法を構築する予定である。本手法の構築は、最終年度に予定されているヒトでのバイオマーカーの検証試験において非常に重要であることから、精力的に進める計画である。
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