2020 Fiscal Year Annual Research Report
異所性灰白質病態と脳進化に関わる脳室下帯の形成メカニズムの解明
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20H03413
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川口 綾乃 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90360528)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 麻友美 名古屋大学, 医学系研究科, 学振特別研究員(RPD) (30551965)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脳室下帯 / 神経幹細胞 / outer radial glia / 神経発生 / ニューロン移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経系が正常な生理的機能を果たすためには正しく形成された脳組織構造が必要である。本研究は大脳発生における脳室下帯(SVZ)の形成に注目し、幼若ニューロンがSVZ内で自身よりも早生まれのニューロン集団内を移動しつつ、適切なタイミングで皮質板へ侵入開始する機構と、ヒトやフェレットなど脳回を有する生物種の厚いSVZ形成をもたらす機構の解明を目指している。 本年度はマウスをモデル動物としてSVZの形成過程に注目した研究を行った。脳の発生過程で大脳皮質の興奮性ニューロンは、VZ(脳室帯)あるいはSVZで誕生する。生じた幼若ニューロンはSVZ・IZ(中間帯)では多極性の形態を示し、多方向へ、しかし全体としては脳膜側へ向けて移動する。SVZ移動中の幼若ニューロン内で成熟に応じて発現レベルが変化する分子のうち、細胞形態および移動に関わる細胞骨格系分子のいくつかの発現レベルを変化させる実験を行った。具体的には、主に生体内エレクトロポレーション法による遺伝子発現操作により脳原基内での過剰発現・ノックダウン操作を行い、組織学的な解析とともに、スライス培養によるイメージングを行った。得られた結果は、対象分子が適切なレベルで発現していることがSVZ内での幼若ニューロン移動に必要であることを示していた。また、ヘテロトピアは個々の分子単独の発現操作実験では観察されず、両者を操作した場合にのみ観察されたことから、脳発生におけるニューロン移動メカニズムにも頑強性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
COVID-19の予想外の感染拡大により当初予定していた実験補助員の募集ができずに繰越を行ったが、その後、新たに雇用した実験補助員の協力を得て、SVZの形成に関わる分子の発現操作実験の定量的な結果を得ることができた。また、SVZ形成に関わる前駆細胞集団の誕生については関連候補分子のノックアウトマウスの樹立を行うことができた。これらを総合して「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、得られた表現型をレスキュー実験を行うなどして検証し、局所的かつ一時的なSVZ組織内の異常が、後続する遺伝的には正常なニューロンの移動障害を引き起こし結節状の異所性灰白質(ヘテロトピア)が形成されるという新規病態モデルの提案を目指す。また新たに樹立した変異マウスの表現型解析等と、より複雑な脳を持つフェレットをモデル動物とした実験を行うことで、進化に伴うSVZの肥厚と複雑脳形成を説明する新規概念の提案を目指す。
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