2021 Fiscal Year Annual Research Report
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20H03945
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
堀口 兵剛 北里大学, 医学部, 教授 (90254002)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大森 由紀 北里大学, 医学部, 助教 (30415971)
松川 岳久 順天堂大学, 医学部, 助教 (60453586)
小松田 敦 秋田大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (70272044)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カドミウム / 秋田県 / 農業従事者 / 米 / カドミウム腎症 / メタロチオネイン / 遺伝子多型 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成21年より秋田県のカドミウム(Cd)汚染地域で農業従事者を対象とする住民健康調査を継続して実施してきた。令和2年度にこれまでの中で最もCd曝露が高度で健康影響も大きかった県北部の集落において11年間の追跡調査を実施し、104名の受診者が得られた(前回からの継続は83名、追跡率は59.3%)。令和3年度は自家産米・血液・尿中のCd等の元素濃度を測定した。米中Cd濃度の中央値は基準値未満であったが対照集落より10倍近く高く、基準値を超えるCd濃度の米が8検体あった(13.1%)。男女ともに血中・尿中Cd濃度は対照集落よりも高かったが、継続受診者では11年間で有意な変化は見られなかった。尿細管機能の指標である尿中β2-ミクログロブリン(β2MG)濃度は男女ともに対照集落よりも高く、継続受診者では11年間で有意に上昇していたが、加齢の影響と考えられた。しかし、Cd曝露レベルの高い70歳以上の女性の中で尿中β2MG濃度が高度に上昇していた人が4名おり、そのうち1名はCd腎症、2名はおそらくCd腎症と慢性腎不全の合併と判定した。新規の住民健康調査を県南部のひとつの集落及び対照の東成瀬村の3つの集落で実施し(受診者数はそれぞれ7名、80名)、現在元素濃度測定中である。 通院中の腎機能低下の患者を対象とするCd腎症スクリーニングを県中央部と県南部の3つの医療機関で合計8名の患者に実施したが、そのうち3名が種々の進行段階のCd腎症と考えられた。 上記の調査対象者と、富山県神通川流域とその対照の住民健康調査の対象者(それぞれ70名、68名)においてメタロチオネイン1A遺伝子のひとつの多型(rs8052394)を調べたところ、その分布には差はなかったが、Cd腎症疑いを含む高β2MG尿症はひとつの型(A/A型)にのみ認められ、Cdの毒性に対する感受性に個人差が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は新型コロナウイルス感染症の蔓延のために9月まで緊急事態宣言が発令されており、それまでは住民健康調査のための対外的な活動はほとんどできなかった。しかし、その間には昨年度に実施した11年間の追跡調査で得られた米・血液・尿の検体の元素濃度をICP-MSを用いて測定しており、概要で示したように貴重な結果を出すことができた。それに加え、受診者の末梢血からDNAを抽出し、real time PCRによりメタロチオネイン遺伝子多型の解析を実施し、Cdの毒性についての個人差を示唆する貴重な結果も得られた。 また、秋田県内の医療機関におけるカドミウム腎症スクリーニングは、地元の医療機関の協力のおかげで緊急事態宣言下でも検体を得ることができたため、緊急事態宣言下でも研究を進めることができた。その結果、県南部でもCd腎症患者が潜在することを明らかにすることができた。 そして、緊急事態宣言が解除された10月以降は半年分の遅れを取り戻すために住民健康調査の準備を急ピッチで進め、令和4年2月に予定していた県南部のひとつの集落での住民健康調査は直前の新型コロナウイルス感染者のクラスター発生のために中止になったものの、令和3年12月の県南部の別の集落での住民健康調査と令和4年3月の対照の東成瀬村での住民健康調査は実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は県南部のひとつの集落の住民健康調査と対照の東成瀬村での住民健康調査で得られた米・血液・尿の検体の元素濃度をICP-MSにより測定しており、結果が出たら個別に報告書を送付し、集落での全体報告会も実施する予定である。 これまでに秋田県北地域(大館、鹿角、小坂)で実施した住民健康調査及び医療機関でのCd腎症スクリーニングにより、これらの地域の農業従事者を中心とする住民におけるCd曝露とその健康影響についての全体像がほぼ明らかになってきた。すなわち、現在では種々の対策により米中Cd濃度は低減しているが、住民のCd曝露レベルは過去の摂取量を反映して高く、特に小坂鉱山と尾去沢鉱山の周囲で高度のCd曝露を受けてCd腎症を発症している人がいることが判明した。しかし、小坂鉱山周囲の小さな集落ではまだ住民健康調査が完了していないため、来年度はこれらの集落を対象とする住民健康調査を実施する計画を立てている。また、Cd汚染の影響の大きかったひとつの集落で11年間の追跡調査を実施したが、現在でもまだその影響が残っていたため、今後も数年毎の住民健康調査を継続して実施することが必要であると考えている。 一方、県南部の横手市には成瀬川流域に吉乃鉱山に由来するCd汚染地域が広がっているが、現時点では住民健康調査を実施できたのは鉱山に近い一部の集落に留まっており、いまだ住民のCd曝露とその健康影響についての全体像は明らかではない。今後は住民健康調査の対象を成瀬川下流のCd汚染地域に位置する集落に拡大して実施することを計画している。そして、県南部の対照としての東成瀬村では、現時点で住民健康診断の受診者が80名得られているが、さらに継続して村内の他の集落で住民健康を実施して対照群の数の増加を図る。 秋田県各地の医療機関でのCd腎症スクリーニングも住民健康調査と並行して今後も継続して実施する。
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Research Products
(2 results)