2021 Fiscal Year Annual Research Report
Strengthening stratification due to ongoing global warming on the outer shelf of the East China Sea: oligotrophication and deoxygenation and the impact on ecosystems
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20H04319
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
張 勁 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (20301822)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郭 新宇 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10322273)
遠藤 貴洋 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (10422362)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東シナ海 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、7月に東シナ海(ECS)陸棚斜面域にて化学・物理観測を実施する予定であったが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、航海そのものが中止された。そこで、過去十数年間に蓄積された当研究課題グループの観測データを解析した結果、ECSにおいて、2004~2020年の夏季期間に低酸素水が観測された。この低酸素水の起源を希土類元素、温度、塩分を取り入れた混合モデルで同定して定量的評価を行ったところ、内部・中央陸棚(28-72%)と外部陸棚(81±3%)で黒潮亜表層水が低酸素水の形成を支配することが明らかとなった。さらに、ECSにおける栄養塩輸送状況を推定したところ、主に(1)栄養塩に富む貧酸素底層水のとの混合と(2)中央・外部陸棚での有機物の分解であることが示された。中央・外部陸棚上の貧酸素底層水への再生栄養塩のフラックスは、夏季に長江から供給されるDINの18-37%、DIPの2-5倍と推定された。本研究の結果で得られた低酸素水が黒潮や対馬暖流に沿って他の海域(特に日本海)に輸送される可能性を考慮すると、これまで大陸棚上の低酸素水等により栄養塩輸送の影響が過小評価されている可能性が考えられた(張)。物理観測では、前年度までに取得した乱流微細構造観測データを詳細に解析し、海底に設置した超音波ドップラー多層流向流速計(ADCP)のデータを用いることで乱流強度の時系列観測を行う手法を開発することに成功した(遠藤)。さらに、東シナ海大陸棚における低酸素水塊の分布を把握するため、WOD18に収録された観測データから海底直上の溶存酸素について月別の平均値を算出し、その分布図から低酸素水塊の存在と季節変化を確認した。また、関連する情報から飽和度とApparent oxygen consumptionも算出した(郭)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染症拡大の影響により航海そのものが中止されたため、今年度はこれまでの観測データ解析および採取試料の分析を中心に行った。ECS外部陸棚域の海底付近で低酸素水塊が観測され、その水塊は高濁度であると確認された。また、海水試料の希土類元素等微量元素組成を分析することで、低酸素水塊における各起源水(黒潮水・台湾暖流水・中国沿岸由来の海水など)の混合比を算出し定量的評価に成功した。今後は現在分析中のNd同位体比と測定済みのRa同位体比、および物理観測データを組み合わせることで、本研究海域における低酸素水をはじめとする水・栄養塩輸送状況の時空間的把握を行う。また、間隙水と海底付近の低酸素水間の物質輸送について、堆積物分布やDOCのデータからより正確に推定する。最終的には、個々の物質輸送に直接関与する海水混合等の素過程の研究をリンクさせ、東シナ海の環境変化が日本海や黒潮域等西部北太平洋縁辺部に及ぼす影響を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
3か年計画の最終年度である。昨年度は航海計画が中止したことを考慮し、今年度は調査計画や内容を調整し、海洋観測及び研究成果の論文投稿と取りまとめを行う。海洋観測は7月に長崎丸を使用して実施する予定である。合計30測点において、海水・間隙水試料は最大300個、海水試料はこれまでの補足として300-600個を想定している。観測では、東シナ海外部陸棚域において水温・塩分を計測して躍層に注目した鉛直構造を把握し、併せて海水中の栄養塩濃度と溶存酸素の分布状況を明らかにする。また、水塊の起源を見出すために、引き続き希土類元素濃度の他、Nd・Rd同位体比等の分析用海水試料を採取・分析し、黒潮水・台湾暖流水・中国沿岸由来の海水や間隙水等による混合割合と平年変化を把握する(張)。これまでに実施した乱流微細構造観測の結果を詳細に解析し、東シナ海底層の乱流拡散による鉛直フラックスを定量化する。夏季に予定されている観測航海時に、東シナ海陸棚斜面域にて、乱流微細構造プロファイラー(TurboMAP)を用いて乱流運動エネルギー散逸率、水温・塩分、濁度を、超音波ドップラー多層流向流速計(ADCP)を用いて潮汐流を計測する。その際、ADCPに溶存酸素計を取り付けて同時観測を実施し、乱流拡散による溶存酸素の鉛直輸送量を見積もる。(遠藤)。さらに、溶存酸素を含む低次生態系モデルはすでに構築されたため、低酸素水塊の季節変化を再現するためのパラメーターチューニングを行う。また、過去の観測データから低酸素水塊の経年変動を検出し、モデル計算からその経年変動を支配する要因を解析する。さらに、d4PDF(Database for Policy Decision Making for Future Climate Change)にある温暖化シナリオのデータを用いて、低酸素水塊の未来予測を行う(郭)。
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Research Products
(19 results)