2021 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of innovative myocardial regeneration strategy with soft and highly dividing cardiomyocytes
Project/Area Number |
20H04521
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80341080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
花島 章 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70572981)
氏原 嘉洋 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80610021)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 心筋 / 分裂・再生 / 酸素環境 / Fam64a / APC/C / Novex3 |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋細胞は胎生期にのみ分裂能を有する為、成体では心筋梗塞等で失われた心筋を再生することは出来ない。我々は最近、心筋分裂には胎生期の低酸素環境が必須であり、出生後の肺呼吸開始による酸素増加が心筋分裂を停めることを突き止め、胎生期心筋の分裂を促進する三つの遺伝子[Fam64a, APC/C, Novex3]を同定した。本研究では、これら三因子の成体心筋への導入による心筋再生を目指す。 1. Fam64aによる心筋再生 Fam64aを出生後長期にわたって心筋特異的に過剰発現するマウスでは、期待通り成体心筋の分裂は促進されたが、同時に心筋細胞の分化不全・脱分化による幼若化が起こり、心機能が悪化した。分子機構を検討したところ、Fam64aが糖質コルチコイド受容体と複合体を形成し、心筋分化を促進する転写因子Klf15を阻害することで幼若化を誘発していた。そこで本年度は、心臓冷却傷害を施した成体マウスにFam64aを一過性に導入することにより、幼若化を最小限に留めつつ心筋再生と心機能回復の促進を目指した。その結果、合成mRNAの傷害部近傍への投与により、局所的且つ一過性[最大7日]のFam64a発現が誘導され、傷害後5週にわたり幼若化を起こすことなく心筋細胞周期の促進、心線維化の抑制、及び心機能の回復を実現できた[Hashimoto iScience in press]。 2. Novex3 KOマウス Novex3は筋サルコメアに局在する巨大蛋白コネクチンのminor isoformであるが、低酸素下の胎生期には心筋細胞のサルコメアだけでなく核にも局在し、核の柔軟性を増すことで心筋分裂を促進する可能性を見出した。そこで本年度は、ゲノム編集によりNovex3 KOマウスを作製したところ、想定通り、新生児期では心筋細胞核の硬化と分裂能低下を認めた。また、加齢による心肥大、心機能悪化が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は分裂が盛んな胎生期心筋細胞の分裂制御機序を解明し、成体心筋へ適用することで心筋再生を目指している。標的の三つの遺伝子[Fam64a, APC/C, Novex3]のうち、現時点でFam64aについての解析が最も進んでいる。本年度は当初の計画通り、心臓傷害を施した成体マウスに対して我々が同定した細胞分裂促進因子Fam64aを一過性且つ局所的に導入することにより、長期過剰発現マウスで問題となっていた心筋細胞の脱分化・幼若化を誘導することなく細胞周期を促進し、心線維化の抑制と心機能の回復を実現することが出来た(Hashimoto iScience in press)。このことは、分化と分裂の間に存在するジレンマ、即ち、心筋を分裂させようとすると脱分化・幼若化により心機能が低下するという本質的且つ不可避の問題に対する突破口となる成果であり、今後の心筋再生戦略を進めるうえで非常に有望な結果である。並行して解析を進めている心筋特異的Fam64a KOマウスでは、ゲノムレベルでの欠損、mRNAと蛋白レベルでの心筋特異的Fam64a欠損を確認した。本マウスでは、Fam64aが胎生初期に心筋特異的にKOされる為、心筋分裂障害や発生異常が想定され、Fam64aの分子機能の理解を深めるうえで必須のモデルである。Fam64aと協調して働くAPC/Cについては、その分子構造が非常に複雑であることから(10以上の分子から構成される複合体)、培養心筋レベルでAPC/Cを効率よく活性化する方法を検討中である。Novex3についてはゲノム編集によりKOマウスを作製したところ、想定通り、新生児期での心筋細胞核の硬化と分裂能低下を認めた。また、本KOマウスは加齢と共に心肥大、心機能悪化を来しており、今後は、核柔軟性制御因子、心筋分裂促進因子としてのNovex3の分子作用機序を個体レベルで検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
[Fam64a] 一過性導入モデルの臨床応用を想定し、傷害の種類(冷却傷害、冠動脈結紮による心筋梗塞)、強度(傷害・結紮時間)、範囲(左室前壁、下壁、側壁、後壁)を変化させた際の最適プロトコルを決定する。また、導入媒体(mRNA、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルス)、導入量(投与量)、導入時期(傷害前/同時/後、複数回投与)についても検討する。心筋特異的Fam64a KOマウスについては表現型解析を進めると共に、心傷害モデルに対する反応を評価し、Fam64aの分子機能の全貌を明らかにする。 [APC/C] APC/CはFam64aの分解因子であり、Fam64aの過剰蓄積による心筋幼若化を抑制することが期待される。APC/Cの主要活性化因子Cdc20に着目して効率的な活性化条件を探索し、Cdc20の心筋特異的過剰発現マウスを作製する。これをFam64a過剰発現マウスと交配すればFam64a単独過剰発現マウスで問題であった心筋幼若化の抑制が期待できる。この系は一過性導入モデルにおける幼若化の抑制にも応用できる。 [Novex3] KOマウスにおいて心筋核周囲への微小管の異常蓄積が認められた。野生型マウスでは、心筋分裂が活発な胎生期には微小管は中心体から伸長して正常な紡錘体を形成するが、出生直後から中心体がなくなり、微小管が核周囲に集まることが示されており、分裂停止との関連が注目されている。そこで、Novex3が微小管の中心体から核への移行を抑制することで心筋核柔軟性や分裂能を維持している可能性を検証する。具体的には、微小管の脱重合促進剤, 安定化剤, また、核と細胞骨格を繋ぐLINC複合体や中心体蛋白のノックダウン・過剰発現等の処置に対する心筋核柔軟性、細胞分裂活性の変化を解析する。更に、傷害心筋へのNovex3の一過性導入モデルについても検討し、心筋再生戦略の構築を進める。
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