2021 Fiscal Year Annual Research Report
アイヌ史構築のための基礎作業としてのアイヌ人物史的研究 蝦夷地一次幕領期を中心に
Project/Area Number |
20J00652
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
上田 哲司 国文学研究資料館, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 近世 / 蝦夷地 / 北海道 / 松前藩 / アイヌ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸幕府による蝦夷地直轄に関する史料や、東北諸藩による蝦夷地警備に関する史料、北陸や近畿地方を出自とする場所請負商人に関する史料などを収集し、そこよりアイヌ社会に関する情報を抜粋し、その実態を細かく追及しようとするものである。検討時期としては、特に蝦夷地一次幕領期(1799~1821)を中心にする。これより以前は、残存史料が僅少に過ぎ、実態分析を行い得ないため、蝦夷地一次幕領期を対象としたい。 本研究の目的の一つは、一次幕領期のアイヌの人々の個々の生業などを細かく追求し、蝦夷地の在地社会の実態に迫ることである。そのために、各史料に見えるアイヌの人々の名前のリストアップなどを進め、個々人ごとの分析を可能にすることを目指す。 この調査を通して明らかになったアイヌ社会のあり様が、アイヌ側の主体性によって構成されたのか、場所請負商人などの介在や幕藩制国家の支配が及び始めてきたことが関係するのかを考察し、蝦夷地の在地社会の実態に迫りたい。 また、蝦夷地一次幕領期の頃から、アイヌの人々に和式の名前を名乗ることが強制されていくが、本研究のもう一つの目的が、その過程を精緻に追求していくことである。そのためにも、アイヌの人々の人名について調査しリストアップすることが重要となる。アイヌの人々に和式の名前を名乗ることが強制されていく過程を明らかにすることは、アイヌの人々に幕藩権力が及んでいく過程を追求することでにも繋がるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の基本的な手法は、江戸幕府による蝦夷地直轄に関する史料や、東北諸藩による蝦夷地警備に関する史料、場所請負商人に関する史料などを収集し、分析するというものであった。しかしながら、新型コロナウイルスの流行という、研究計画提出当初には全く予期せぬ事態を迎え、特に史料収集に多くの困難が伴った。2021年度も、東北地方への出張を、直前に中止せざるを得ないことがあり、調査出張が滞った。そこで、研究費の繰り越しを行った。 このような状況の中、2021年度には、「移住型植民地・北海道における名望家の登場」『北方人文研究』15号、「島松駅逓所をめぐる北海道の交通と稲作の歴史」『運輸と経 済』896号、「余市・林長左衛門家の三等郵便電信局関係資料の目録と解題」『北海道博物館研究紀要』7号の3本の論考を執筆し、いずれも2021年度中に刊行された。これらはいずれも近代北海道史に関する論考であり、当初計画と比べて対象とする時代が異なるが、史料の収集が困難な状況が続く中、2021年度までに収集し得た史料や、遠方へ出張に行かずとも閲覧が可能な史料を用いて、可能な限りに研究を進めた結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は状況がやや緩和し、繰り越した資金なども用いて、精力的に史料収集のための出張を行い、北海道・東北地方のほか、滋賀県や石川県にも出張した。2022年度は、史料収集が大きく進展したが、計画が後ろ倒しになったのは否めない。収集した史料の翻刻や分析も進めており、その成果は、史料紹介や複数の論文として公表していく計画であるが、2022年度中に一定の成果としてまとめ得なかったことは残念であった。 2023年度以降も所属を変えて研究を続けるので、残してしまった課題の解決に取り組みたい。
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