2021 Fiscal Year Annual Research Report
白亜紀/古第三紀境界の大量絶滅に伴う深海底生動物群集の行動様式の進化過程の解明
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20J01599
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菊地 一輝 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 生痕多様性 / 生物撹拌強度 / 海底扇状地 / 画像分類 / 生痕学 / 堆積学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,始新統音無川層群の生痕化石群集の記載,および露頭画像から生痕化石の領域を自動抽出し,生物撹拌強度を推定する手法の構築,の2つのテーマに取り組んだ.昨年度の研究によって,白亜紀の海底扇状地堆積物の生痕化石群集は,分類群組成や生物撹拌強度の点で一般的な生痕化石相モデルと異なることが判明した.そこで,本年度は新生代の生痕化石群集の例として,紀伊半島南西部に分布する始新統音無川層群を対象とし,堆積環境を復元して生痕化石群集を記載した.調査地域には,音無川層群瓜谷層の最上部と羽六層の下部が露出する.堆積相の特徴から,瓜谷層は堆積盆底堆積物,羽六層は海底扇状地のフロンタルスプレイ下流部から分流チャネルを伴う上流部の堆積物と解釈された.瓜谷層からは体幅1 cm程度の堆積物食者による摂食痕が産出した.一方,羽六層の最下部からは体幅数mm程度の底生動物による多様な形態の摂食痕,居住痕からなる生痕化石群集が産出した.また,調査層準上部からは甲殻類の巣穴化石が多産し,生物撹拌強度も非常に高かった.この生痕化石相の違いは,堆積環境変化に伴う物理的撹乱の頻度の変化に対する底生動物群集の応答を反映した可能性がある. また,露頭画像からの生痕化石の自動抽出モデルを畳み込みニューラルネットワークを用いて構築し,生物撹拌強度の推定に援用する方法を提案した.教師および検証データには国際深海科学掘削計画により公開されているインド洋の中新世の海底扇状地堆積物のコア画像を用いた.自動抽出モデルとして畳み込み層を8層もつU-Netを作成した.このモデルにコア画像と手動で生痕化石を抽出した画像との関係を学習させたところ,未知のデータに対して約88%の精度で生痕化石を分類するモデルが生成された.今後,このモデルにより大量の生物撹拌強度のデータを収集可能になり,生物撹拌強度変動の一般的傾向の解明が期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,今年度は新生代の海底扇状地堆積物の調査を行った.その結果,調査対象層準の空間分布や堆積環境などの地質学的背景や,生痕化石群集のデータを得ることができた.これらのデータに基づいた生痕多様性や生物撹拌強度の解析も行っており,今後,新たに得られるデータとの定量的な比較も可能と考えている.また,本年度に構築した生痕化石の自動抽出モデルにより,大量の露頭画像を処理して生痕化石データを得る目途が立った.また,今後検討予定の九州南部の日南層群について,予察的な調査を行い生痕化石の産出を確認している.以上のことから,本研究は順調に進行していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,新生代の海底扇状地堆積物の調査を行い,生痕化石群集の記載を行うことを計画している.調査対象として,始新統音無川層群および漸新統日南層群を予定している.砂岩層の下面や泥岩層中に保存された生痕化石の分類群組成や分類群数,生物撹拌強度に着目した調査を行い,これまでに収集したデータと定量的に比較可能なデータの取得につとめる.また,本年度に作成した露頭画像中の生痕化石の自動抽出モデルの精度は,生痕化石の分類群を区別せずに抽出する程度にとどまっている.生痕化石の分類群組成や分類群数の変動を検討するためには,生痕分類群を区別できるモデルの構築が必要である.そのための教師データの追加作成と畳み込みニューラルネットワークの改良も今後行う.教師データには本研究で収集された露頭画像に加えて,国際深海科学掘削計画で公開されている各年代の深海堆積物のコア断面画像を用いる予定である.さらに,次年度はこれまでに収集した生痕化石データを集約して,白亜紀/古第三紀境界をまたいだ生痕多様性変動を復元する.
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