2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトの創造性を生み出す自己家畜化現象の生理学・生態学的機序の解明
Project/Area Number |
20J01616
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
外谷 弦太 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 自己家畜化 / ニッチ構築 / 社会的相互作用 / 構造的創造性 / 家畜動物 / 言語進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人類に特異的な言語と社会の構造が、構築されたニッチに対する循環的な適応、すなわち自己家畜化により生じたという仮説を立て、『A. 言語に見られる構造的創造によるニッチ構築と家畜化』『B. 家畜化された動物とヒトの比較』『C. 構造的創造性を生み出す生成・評価能力』という三つの側面から接近するものである。 Aについては、昨年度投稿した論文の修正を行なった。論文は2022年度出版予定の藤田・岡ノ谷編著『言語進化学の創成(仮)』に掲載予定である。ニッチ構築と自己家畜化は相補的な現象であり、本論文では人類進化と絡めてその進行過程を考察している。 Bについて、本年度の研究計画は、鳥類パートと哺乳類パートに分けられていた。鳥類パートでは、家禽であるジュウシマツの向社会性を調べるための実験系を構築し、その分析結果を『日本動物行動学会』にて発表した(学会発表1)。ジュウシマツは選択的な個体間関係を構築している可能性があり、今後より標本数を大きくしてこの仮説を検証していく。また同じく哺乳類パートについて、家畜化された齧歯類であるラットの向社会性を調べるための実験系を構築し、その分析結果を『人間行動進化学会』にて発表した(学会発表2)。これらの結果は群居性の家畜化動物における向社会性と、ヒトにおける向社会性を比較する上で重要である。 Cについては、構造生成能力として、概念の再帰的結合能力の進化シミュレーションを構築し、分析結果を国際学会『Leipzig Lectures on Language 2022』にて発表した(学会発表3)。また構造評価能力として、メタ認知能力の進化シミュレーションを構築し、分析結果を『日本動物心理学会』にて発表した(学会発表4)。どちらもニッチ構築と強く関係する能力であり、その進化を明らかにすることは自己家畜化による人類進化シナリオの妥当性に関わる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により、当該年度は関連研究者との対面での会合や学会発表における議論などはなかったものの、家畜化された動物であるトリやラットの社会的相互作用の分析や、オンラインでの成果発表を行うことができた。言語能力をはじめとする高次認知の進化シミュレーションも構築し、国際学会において発表を行なっている。論文化の作業がやや遅れているため(2)とする。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を論文にまとめつつ、動物を対象とした実験によって得られた結果と、計算機シミュレーションを通して得られた知見を組み合わせる段階に入る。これにより、家畜化と自己家畜化の類似点・相違点を明らかにし、家畜化症候群によって説明できる部分とできない部分を区別・整理する。また、家畜化動物の認知からヒト認知へと実験を移行し、ヒトの社会的相互作用を分析するシステムの構築を進める。
|