2020 Fiscal Year Annual Research Report
財政競争と財政移転制度に関する経済学的考察:分権化経済における望ましい制度設計
Project/Area Number |
20J11105
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
菊池 悠矢 名古屋大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 財政競争 / 財政移転 |
Outline of Annual Research Achievements |
経済・通貨統合や自由貿易協定に象徴されるようにグローバル化が進行することで、資本や労働の移動性が飛躍的に高まった。これに伴い、租税政策を通じて資本や労働といった課税ベースを奪い合う政府間の競争が、各国・地域間で観察されるようになった。「底辺への競争」としてその有害性が知られており、本研究では財政競争が引き起こす公共政策の非効率性を解消する望ましい財政移転制度のあり方について研究を行っている。2020年度は各国経済の現状調査と先行研究の整理を行った上で、2021年度の政策分析の基礎となる理論モデルの構築を行った。具体的には、地域の政策手段に関する研究、公共支出構成と租税体系に関する研究、地域間人口移動と所得税制度に関する研究を行った。地域の政策手段に関する研究では、雇用創出を企図する地域の政策決定を想定した理論モデルを構築することで、各国・各地域にとって望ましい政策手段を明らかにした。公共支出構成と租税体系に関する研究では、最適な公共支出構成の観点から望ましい租税体系を提示した。人口移動と所得税制度に関する研究では、2種類の労働者が地域間を移動する経済を考慮し、望ましい所得税制度を明らかにした。 財政競争環境下における望ましい財政移転の制度設計は各国にとって共通の政策課題である。また、連邦国家のみならず我が国のように地方分権化を行っている国々においても、国内の地域間で財政競争環境下に陥る可能性が高く本研究の重要性は極めて高い。これら一連の理論研究の成果は、仮説を提供することへもつながっており、実証分析への応用が期待される。さらに、構築された理論モデルはその汎用性の高さからスタンダードに利用されることが期待される。また、本研究は証拠に基づく政策決定に資する判断材料を提供することも期待される。このように2020年度の研究成果は、学術面と政策面の両面で示唆に富んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画は、各国・各地域の経済状況を考慮した上で望ましい財政移転制度を分析することであった。しかしながら、研究計画を一部変更し、財政移転の政策分析の基礎となる理論モデルの構築に注力した。具体的には、上記3つの研究を行い、"Nash Equilibria in Models of Fiscal Competition with Unemployment"を公表した。残り2つの研究に関しても順次公表していく予定である。これらの研究成果は2021年度の研究計画を一部前倒ししたものであり、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては2020年度の研究計画を発展させ、望ましい財政移転制度のあり方に関する研究を行う。具体的には、2020年度に構築した理論モデルを基礎として、各国の財政移転制度の効果を検証し、政策的知見を導くことを目的としている。現時点で大きな計画変更は予定していない。
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