2020 Fiscal Year Annual Research Report
中世末から近世初頭における書誌学的モデルの構築―『天正記』の基礎的研究を中心に
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20J11433
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
竹内 洪介 北海道大学, 文学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 書誌学 / 日本近世文学 / 豊臣秀吉 / 歴史学 / 料紙 / 軍記 / 実録 / 写本 |
Outline of Annual Research Achievements |
『天正記』のうちもっとも伝本が多く清書者自筆本も複数伝来する『聚楽行幸記』の諸本を、料紙・装訂・筆跡などの書誌学的事項に注目しつつ本文も分析して整理した(「『聚楽行幸記』諸本考―伝本の整理を中心に―」(『国語国文研究』第156号、2021年2月))。この整理によって、本研究で構築する書誌学的モデルの核として『聚楽行幸記』諸本を位置づけることができた。この成果は国文学研究資料館共同研究成果発表会「新しい軍記関係資料論―理文融合型研究の現在」(2020年12月12日)でも「聚楽行幸記の写本学」と題して発表した。また、天正20年に行われた聚楽行幸について記録した新出文献『天正二十年 聚楽第行幸記』についてもその意義を論じた(「天正二十年聚楽行幸考―「新出『天正二十年』聚楽第行幸記』を中心に」(『國學院雑誌』第121巻9号、2020年9月))。
さらに今年度は本研究計画でもともと発展的研究として企図してきた『天正記』およびその関連作品群の近世期全体への展開を考察する計画も実行した。『聚楽行幸記』は豊臣秀吉の伝記的作品群にそのほとんど全文が引用されることが多いという特徴に注目し、これまで考察してきた『聚楽行幸記』の諸本に関する分析を生かして近世後期における秀吉伝の代表的な作品である『太閤真顕記』についてその展開を整理し、近世後期の書誌学的モデルを構築した(「太閤記物実録三種考―『真書太閤記』『太閤真顕記』『重修真書太閤記』の成立を辿って ―」(『近世文藝』第113号、2021年1月)および「『太閤真顕記』異本系統考―九州大学附属中央図書館蔵本第五編を出発点として―」(『古代中世文学論考』第41集、新典社、2020年10月))。 これは『天正記』および秀吉の伝記的作品群の近世後期における展開を解明し、本研究が構築する中世末から近世初頭の書誌学的モデルを対比的に際立たせる成果でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は予定していた海外調査・寺社調査が新型コロナウイルスの影響で実施できなかったが、計画を調整することに依って本研究で構築する中世末から近世初期の書誌学的モデルの核となる『聚楽行幸記』(『天正記』の一編)の諸本調査が曼殊院本を除いてほぼ完了し、その諸本整理と書誌学的な検討の成果を研究会発表および論文の形で報告することができた。それだけでなく、『聚楽行幸記』に後続して成立した『天正二十年 聚楽第行幸記』に関する論文も発表することができた。 このように本研究のテーマである書誌学的モデルの構築が順調に進んだだけでなく、『聚楽行幸記』が近世期に伝播した秀吉の伝記的作品群の多くにほぼ全文に近い形で引用されることに注目した結果、近世後期の『天正記』関連作品群である『太閤真顕記』の諸本についても新たな知見を得たばかりでなく、従来不明瞭であった『絵本太閤記』『重修真書太閤記』等近世後期の秀吉の伝記的作品群の展開まで整理し、論文2本を発表することができた。この研究成果は本研究の書誌学的モデルを近世後期の文学研究に応用した例として認めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は海外調査も視野に入れた調査計画を立てていたが、新型コロナウイルスの影響によりその遂行は難しくなった。『天正記』諸本の複写はほぼ完了している状況にあるが、書誌学的モデルの構築のためには重要写本は実見の必要があり、厳しい状況にあるということに変わりない。 そこで、既に完成状態にあり、書誌学的モデルの雛型として有効と思われる『聚楽行幸記』を中心としつつ、その関連作品(『天正記』の他作品を含む)を追加していく形で、中世末から近世初頭期の書誌学的モデルを構築するというように若干の軌道修正を行うこととする。なおこれは『聚楽行幸記』諸本を書誌学的モデルの核と見做し、それに多くの関連作品を付加していくという手法をとることによって、より分かりやすく確実な形で本研究計画の遂行を目指すというものであって、計画そのものを縮小するというわけではない。 また、本年度で思いがけず研究が進展した近世後期の『天正記』関連作品群の展開の検討についてもさらに考察を深め、『天正記』の近世期における影響の大きさや書誌学的モデルの応用の可能性などについても検討していくことで、中世末から近世初頭の書誌学的モデルを対比的に際立たせ、さらに完成度の高いものとしていきたい。
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Research Products
(9 results)