2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J15514
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 芳生 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | Problem-Based Learning / 実行可能性 / 持続可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
大学教育の質保証に向け、「統合的な学習経験」を含むProblem-Based Learning (PBL) が注目を集め、多くの分野で実践されるようになってきた。その一方、幾つかの問題点も顕在化してきている。本研究では、それらをPBLの「持続可能性の問題」、「実行可能性の問題」、「発展可能性の問題」の3つに整理した。その中でも、2020年度は「実行可能性の問題」に関して、PBLを1年生を対象に初めて実施する大学にアクションリサーチを行った。具体的には、PBL科目を実施するまでの検討会での議論の記録や、授業のためにデザインされた学生用のワークシートやルーブリックを収集するとともに、授業後には、学生と教員のそれぞれにアンケート調査を行い、これらの活動のプロセスを活動理論に基づいて総合的に分析した。 そして、分析の結果から大きく3つのことが明らかとなった。第一に、活動の土台となる《ルール》や《共同体》、《分業》などの影響に注視する必要性である。今回の事例から「重要な科目としての位置づけ」《ルール》が実行しなくてはならない状況を強化し、PBLを実施するための教育的資源の再評価や再構成を促していた可能性が示唆された。第二に、活動における《道具》がもつ「柔軟性」の問題である。実行可能な方法が模索される中で、PBLは実施環境に応じて実施方法を工夫できる「柔軟性」を持つものであることが再認された。そして第三に、一度実施されたものがその後も続いていくかという「持続可能性」について、《結果》が生じたプロセスを踏まえて再度検討する必要があるということである。以上から、PBLは、その「柔軟性」により、「実行可能性」に関しては危惧されるほど障壁は高くない一方、実施した後、いかに持続可能なものとしていくか、その長期的な視野と、省察的な教育改善の姿勢が問われる教育的アプローチであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「PBLの実行可能性」という問題について、藍野大学(PBLの導入を予定していた医療系大学)の実践に参与し、現場の関係者と良好な関係を築きながら、アクションリサーチによって研究を遂行した。2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、検討会の延期や授業実践の内容の変更など、想定外の事態も生じていたが、Zoomなどのweb会議システムを活用して検討会に参加したり、感染対策を行いながら授業観察を行ったりするなど、ほぼ計画通りに研究を進めることができた。得られたデータについては、これまでの研究とも関連づけて分析を行い、論文の執筆が順調に進んでいる。 一方、「PBLの発展可能性」に関する研究においては、当初の予定であれば、東京都市大学(全学でPBLを展開している私立総合大学)などで授業を見学しながら、実際に医療以外の分野でPBLを実施している大学の実践者にインタビュー等を実施し、分野によるPBLの実施や発展の仕方の違いを分析する予定であった。しかし、2020年度は新型コロナウイルス感染症による影響で、実践大学に訪問することが困難な状況となったことなどから、事例研究は困難であると判断し、文献研究に切り替えている。既に、先駆的にPBLを実践している事例の文献を収集し、医療系分野を中心に展開されてきたProblem-Based Learningと、工学分野を中心に展開されてきProject-Based Learningの歴史的展開や、学習プロセスのモデルについての整理を始めている。このように、2020年度はコロナ禍により研究計画の一部変更を余儀なくされたものの、代替の計画によって、順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、PBLの「持続可能性の問題」に関する研究知見を整理した後、その結果をもとに、「実行可能性の問題」に関し、現在も承諾を得て関与している、藍野大学のPBL科目「シンメディカルⅠ」や「シンメディカル論」の実施に関する教員の負担感や効力感等をとらえる質問紙調査やインタビュー調査、学生への質問紙調査や成果物の分析を実施した。また、他の授業科目との関連性を分析するため、「学びの基盤」や「文章表現法」など初年次教育の関連科目でも同様にデータを収集した。 2021年度は、「実行可能性の問題」に関し、藍野大学でPBL科目「シンメディカルⅡ」が新たに実施される。したがって、前年度に実施したものと同様の調査を、本年の「シンメディカルⅠ」と「シンメディカルⅡ」、「シンメディカル論」に実施し、経年的な比較や科目間での比較を行う。また、「学びの基盤」や「文章表現法」などを対象に、他の授業科目との関連性についても、前年と同様にデータを収集する。 そして、「発展可能性の問題」に関しては、複数の分野におけるPBL実践の中心人物にインタビュー調査を依頼する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、実践研究は実行が困難な状況となってしまった。そのため、これを文献研究の形式に移行することとした。具体的には、先駆的にPBLを実践している事例の文献を収集し、医療系分野を中心に展開されてきたProblem-Based Learningと、工学分野を中心に展開されてきProject-Based Learningの歴史的展開や、学習プロセスのモデルについての整理を行い、分野を超えたPBLの実施方略について検討する。
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Research Products
(3 results)