2020 Fiscal Year Annual Research Report
変化する社会環境で「集団の知恵」は成立するか:心理・神経・生態学的基盤の検討
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20J20900
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内藤 碧 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 集合知 / 社会的学習 / 計算論的アプローチ / 群知能 / メタ知識 / 情報採餌 / 不確実性下の意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、変動環境下で集合知を実現する機序を理解するため、集合知の基盤となる心理過程(社会的学習過程)に主な焦点をあてて、研究を実施した。これまでの研究では、社会的な情報の伝達形式(人気度、口コミ、自信度など)を実験的に操作することによって、集合知を実現するために最も適した伝達形式を特定するというトップダウン的なアプローチから、集合知を支える社会的学習過程が検討されてきた。そのなかで、複雑なコミュニケーションを介さず、他者の行動履歴だけを模倣するというミニマルなヒューリスティクスの優位性が多数報告されている。しかしながら、従来の方法では強い実験統制下での最適性が議論されているにすぎず、実際に人々がどのようなアルゴリズムに基づいて意思決定を行っているかについて十分明らかにされてこなかった。本研究では、これまでに報告されているようなミニマルな社会的情報のやりとりにおいて、人々が生み出す集合知がどのような社会的学習プロセスによって支えられているのかを、計算論モデリングの手法を用いて実験的に検討した。その結果、伝達された情報が他者の行動履歴だけであったとしても、人々はそれをヒューリスティックに模倣するだけではなく、環境の変動を規定するより上位階層の法則性まで学習することが明らかになった。この発見は、集合知の規定因が、人間社会の情報伝達形式のみにあるのではなく、環境の変動に応じて社会的情報を柔軟に活用するという内部的な情報処理メカニズムにも存在することを示すものであり、ボトムアップのアプローチから、集合知の基盤となる心理過程をより包括的に説明することに成功したといえる。以上の研究結果は、大きな社会変動を伴う現代社会において、集合知の発生原理を理解するとともに、集合知を実社会でより一層活用するための社会制度設計に対しても示唆を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、順調に計画を進行することができた。年初からの新型コロナウイルス蔓延による社会状況の変化によって、対面形式での集団実験が事実上不可能となった。しかしながら、昨夏までに新たにオンライン形式で集団実験を行うプラットフォームを構築し、参加者が自宅から集団実験にアクセスできる実験環境を整えることができた。その結果、情報共有をめぐる意思決定過程が集合知の発生に与える影響について調べる実験を、約100名を対象に実施完了した。現在は、そのデータを解析している段階である。 また、研究実績に記載の実験結果について、国際誌への投稿に向けて準備している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかにした集合知の基盤となる心理過程をもとに、集合知の一般理論の構築に向けてより包括的な視点から研究を構築する。具体的には、二者間の相互作用から大集団の集合現象に通底する集合知基盤、そして集団サイズのスケールに特異的な基盤の解明をめざす。そのために、アイトラッキングを用いた生理指標の分析及び、大集団を対象としたオンライン集団実験の両軸を統合的に進める。また、これまでの研究成果を論文によって発表し、フィードバックを参考に研究をより良い形で推進していく。
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Research Products
(5 results)