2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J22434
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 裕也 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 類聚名義抄 / 漢字音 / 古辞書 / 新撰字鏡 / 和名類聚抄 / 万葉仮名 / 呉音 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、平安時代に編纂された古辞書である『類聚名義抄』の編者が、漢字音をどのように捉えていたか明らかにすることである。『類聚名義抄』は原撰本と改編本に大別され、原撰本をもとに改編本が編纂されたとされる。出典、原撰本、改編本の三者の記述を比較すること、『新撰字鏡』、『和名類聚抄』などの同時代の文献を用いて『類聚名義抄』の記述を相対化することにより、以上の目的を明らかにする。 本年度は主に『類聚名義抄』の呉音注について研究を進めた。はじめに『類聚名義抄』の呉音注の出典である『大般若経字抄』の音注の特徴を考察し、『大般若経字抄』の音注、原撰本の呉音注、改編本の呉音注を対照した。また、改編本の呉音注は諸本間での異同が少ないことから、改編本共通祖本(最もはじめの改編本)に遡る注であると推定し、改編本の原形についての考察を行った。令和2年度科研費基盤A「平安時代漢字字書総合データベースの機能高度化と類聚名義抄注釈の作成」研究集会(2020年9月)において、以上の研究成果を口頭発表し、それをもとに論文「改編本『類聚名義抄』の呉音注と共通祖本について」(『国語国文』第九十巻第二号)を発表した。改編本の呉音注は、改編本共通祖本以後に重要視されなかったことが判明し、上記の目的について、改編本の呉音注の観点から研究を進展させることができた。本年度の研究成果は『類聚名義抄』の改編過程を考える上でも意義のあるものとなった。 また、『新撰字鏡』、『和名類聚抄』、原撰本『類聚名義抄』などに現れる万葉仮名について調査を進めた。平安時代の万葉仮名は音仮名が多く、音仮名の分析から古辞書の編者の漢字音に対する意識を窺うことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に『類聚名義抄』の呉音注について研究を進めた。呉音注の出典である『大般若経字抄』と、原撰本・改編本の呉音注とを比較し、改編本が『大般若経字抄』の音注を呉音注として継承する比率を算出した。「改編本『類聚名義抄』の呉音注と共通祖本について」(『国語国文』第九十巻第二号)において、改編本の編者の呉音注に対する意識や改編本の編纂過程について、研究成果を公表することができた。 また、2019年度に発表した『類聚名義抄』の和音注に関する論文「改編本『類聚名義抄』における和音注の継承と増補について」(『訓点語と訓点資料』第一四四輯)が、2020年度漢検漢字文化研究奨励賞(佳作)を受賞した。本論文は和音注の観点から『類聚名義抄』の漢字音に対する意識を考えるものである。 以上のことから、『類聚名義抄』編者が漢字音をどのように捉えていたかという研究目的に対し、おおむね順調に研究を進展させていると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで『類聚名義抄』の呉音注と和音注について研究を進めてきた。今後は『類聚名義抄』の漢音注についての研究を行う必要がある。そのため、『類聚名義抄』の漢音注について、原撰本の漢音注と改編本の漢音注の対照表を作成し、『類聚名義抄』の漢音注の特徴と『類聚名義抄』編者の漢音に対する意識を明らかにしていく予定である。 また、同時代の文献に現れる漢字音についての研究も進め、『類聚名義抄』の記述を相対化する。『新撰字鏡』の音仮名や『和名類聚抄』の音注について整理し、『類聚名義抄』の様相と比較する。今後は平安時代の万葉仮名がどの程度漢字音を反映するかについて考察を進めていき、平安時代の人々が、もともと中国語であった音をどのように日本語へと受容したかについて明らかにしていきたい。平安時代の万葉仮名を研究する上で、上代の文献(『日本書紀』、『萬葉集』など)や片仮名(訓点、宣命等を含む)との関係を考える必要がある。古辞書研究に留まらない広い視座をもって、本研究を遂行していきたい。
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