2020 Fiscal Year Annual Research Report
建築の形態を考慮した居住者の環境適応の評価に関する研究
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20J23025
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菅野 颯馬 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 波長別光環境 / シミュレーション / 実測調査 / 分光放射照度 / 光合成有効光量子束密度 / メラノピック等価照度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、建築の3Dモデル内での分光放射照度のシミュレーションの精度検証実験を実施した。本研究課題では、シミュレーションで得られた3D建築モデル内の分光放射照度から、光合成有効光量子束密度(Photosynthetic Photon Flux Density、以下PPFD)を算出し、屋内植物に適した光環境を農学分野の知見を用いて評価する手法を提案した。屋内植物の生育に適した光環境の詳細な検討を可能にし、将来的には人間と植物が快適に共存可能な建築環境の計画に役立てることを意図した。本研究課題では、建築の3Dモデル内で分光放射照度を計算するソフトウェアであるAdaptive Lighting for Alertness(以下ALFA)の予測精度を検証するための実測調査をした。窓を有する大学教室で携帯型分光放射計を用いた実測を行い、ALFAによる分光放射照度の計算値と比較した。計算においては、壁や床などの各部材の分光反射率や、照明の配光特性などは測定値に基づいて入力した。スカイモデルの精度や、昼光と照明光が混在する屋内での分光放射照度の予測精度を検証した。昼光と照明光が混在する屋内においても分光放射照度の予測が高い精度でできていることを確認した。 これまで、建築内においてALFAの精度検証を実施した研究は見られなかったが、本研究により計算値の妥当性が確認できた。これに伴い、メラノピック等価照度(人間のサーカディアンリズムに影響する光量の評価指標)や、植物の光合成と相関が高いPPFDの予測精度も高く得られることが示された。以上の成果は、建築の昼光制御を担う形態要素(窓、日射遮蔽用のルーバーなど)の設計検討などに活用することで、人体生理や植物生理に適した建築環境の計画に展開可能なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度は当初の計画通り、波長別光環境シミュレーションの精度検証実験を完了させた。さらに、波長別光環境解析技術を応用した屋内緑化のための環境評価手法を提案し、その成果をまとめた論文は国内の査読付きジャーナルに掲載された。本論文で提案した手法は、既存の手法とは大きく異なる新規性の高さと共に、建築環境学と農学の学際的な研究としての価値がある。また、本論文を英文化した翻訳論文の投稿準備も進めている。他にも、ISIAQ(The International Society of Indoor Air Quality and Climate)が主催する権威ある学会Indoor Air 2020に当該研究を発展させた内容の論文が採択され、オンラインで口頭発表を行った。本研究では植物群落が形成する波長別光環境の予測手法を提案しており、屋内植物の生育を考慮した建築環境の計画に資するものである。 また、2019年度に自らが実施設計に携わった建築の設計手法を、日本建築学会大会建築デザイン発表会で発表した。築80年の木造住宅の改修に際し、構造の補強と、温熱環境を改善するための断熱補強を行った。寒冷地の冬季においても快適な環境を担保できるよう、潜熱蓄熱材を用いた床暖房システムも導入した。2021年度は本住宅での実測調査を行い、温熱環境や光環境などの評価を行う予定である。 2020年度は上記の研究成果に加え、国内の研究機関や民間企業との共同研究を複数主導し、査読付きジャーナルへ投稿予定の論文の執筆や、実験を進めている。以上より、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は以下の研究課題を実施する予定である。 1) 窓の有無や屋内植物の配置を変更した模擬執務室での被験者実験:屋内緑化が人間の心理・生理反応や知的生産性に与える影響を、窓の有無や植物の配置といった建築計画のコンテクストを考慮しながら検証した。屋内緑化を導入する際に効果的となる建築計画に関する知見を得ることを目的とした。2021年度中に、海外の査読付きジャーナルへの論文投稿を予定している。 2) 大阪市の集合住宅における室内環境および窓開閉行動の調査:住宅における居住者の環境適応行動の評価手法の検討を行う。2021年度も継続して室内環境と窓開閉行動の調査を行い、基礎データを収集する。既に収集したデータに基づき、日本建築学会大会や空気調和・衛生工学会大会での発表を予定している。 3) 建築環境を模擬したグロースチャンバーでの観葉植物の生育実験:照明時間と光強度を変更した3つのグロースチャンバーで、国内で流通する4種類の観葉植物を生育させ、光合成速度の測定や、成長量の測定を行っている。2020年度に行った、屋内植物のための波長別光環境評価手法を実際の建築設計に応用する際の知見となる。実験は継続中であり、完了後には海外の査読付きジャーナルへの論文投稿を予定している。
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Research Products
(8 results)